家庭医療と痛みの診察室

家庭医療と痛みの治療を中心に、調べたことや感じたことをアップしていきます。

慢性腎臓病

  

  1. 慢性腎臓病(chronic kidney diseaseCKDは慢性的に腎臓の異常のある疾患のすべてを包含する疾患概念である。
  1. CKDの重症化により末期慢性腎不全への進行とともに、心血管疾患(cardiovascular disease、CVD)発症のリスクも上昇する。
  1. CKDには腎に異常を来す一次性あるいは二次性の原腎疾患があり、診療においては原腎疾患の管理が優先される。
  1. ついで、CKDの進行に関わる共通の治療を実施する。
  1. 近年、加齢とともに経時的に腎機能が低下しCKDと診断されるいわゆる生活習慣病関連のCKDを伴う高齢者の増加がある。
  1. 健診での蛋白尿などの腎障害の存在が疑われる場合、血清クレアチニンをもとに推算される糸球体濾過量(GFRが60未満と推定される場合、その他の異常がなくともCKDの存在を疑い再検査を含めた評価を行う(推奨度1)
  1. GFR低下がある場合、尿検査(蛋白尿、血尿、円柱尿の有無)を実施し、病歴の聴取によりその原因検索を行う
  1. CKDの定義に従い、腎障害の指標(蛋白尿(0.15 g/24時間以上0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上30 mg/gCr以上)、尿沈渣の異常、尿細管障害による電解質異常やその他の異常、病理組織検査による異常、画像検査による異常、腎移植の既往)、腎機能低下(GFR60 mL/分/1.73 m2未満)のいずれかが3を越えて持続する場合CKDと診断する。
  1. CKDと診断された場合には重症度を評価することが強く推奨される(推奨度1、表1<図表>
  1. 日本人におけるGFR推算式:eGFR:推定糸球体濾過量 (日本腎臓学会計算式)
  1. 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、高尿酸血症、過去の検尿異常の既往などCKD発症の危険性の高い場合には数カ月に1回は検尿、血清クレアチニン検査を実施し、CKDの早期発見に努めることを強くめる(推奨度2
  1. 血清クレアチニン値は腎機能以外に、食事および筋肉量による生成、尿細管分泌、腎外排泄により変動する。抗癌剤の投与計画策定時など、腎機能による微細な投与量の決定が必要な場合にはシスタチンCとクレアチニンの両者を使用したGFRの推算式を用いるか、蓄尿によるGFRの測定により正確な腎機能の評価を実施すべきである(推奨度2)
  1. 重症度分類によるGFRステージ、蛋白尿(アルブミン尿ステージの進行は、CVDよる死亡、末期慢性腎不全による腎代替療法開始と相関があるため(表2<図表>ステージ進行抑制目指した介入を実施することが強く勧められる(推奨度1
  1. 推算GFR(eGFRが3月以内に30以上の低下がある場合、蛋白尿と同時尿潜血が陽性となる場合、尿蛋白が0.5 g/日以上もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合eGFRが年間5 mL/分以上低下する場合、腎臓内科へのコンサルトが勧められる(推奨度1
  1. 以下のような場合、腎生検の施行を考慮する必要がある(推奨度2フローチャート1アルゴリズム[1]
  1. 尿蛋白が陽性の患者:1日尿蛋白が0.5 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合
  1. 尿蛋白が上記未満であっても尿潜血を伴う場合
  1. 尿潜血のみ陽性の患者:若年で尿沈渣に変形赤血球が多く存在する場合や、病的円柱を認めるなど糸球体疾患を積極的に疑う場合(これに関しては明確なエビデンスは出されていないが、臨床的な経験からのエキスパートオピニオンである。詳細は、原因疾患の評価: >詳細情報 参照)
  1. CKDのステージ進行抑制には原腎疾患の管理に加え、適切な血圧、血糖、脂質異常症高尿酸血症、体重の管理が重要である(推奨度1)
  1. すべてのCKDステージにおいて腎臓リハビリテーションの実施が勧められる(推奨度1)
  1. CKDのステージ進行抑制には適切な生活運動指導、食事指導が必要で、生活習慣の改善には複数の医療従事者による教育指導が有用である(推奨度1)
  1. 喫煙はCKDの発症および進行に関連する独立した危険因子であり、CVDの発症リスクを増加させることから、CKD患者に禁煙指導を行うことは強く勧められる(推奨度1)
  1. ステージG3~G5のCKD患者では、腎機能障害の進行抑制のため、病態に応じたたんぱく摂取量を考慮する必要がある。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、0.6~1.0 g/kg/日のたんぱく摂取量の調整を勧めている(推奨度2表3<図表>表4<図表>過度のたんぱく質摂取制限はサルコペニア等の誘発の危険があり、慎重に適応を考慮する。また食事療法には、生命予後の改善やQOLの維持を目指して適度な運動の併用が勧められる(推奨度1)
  1. 食塩摂取過剰は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかっている。したがって、CKDステージ進行抑制のため、1日6 g未満(3 g以上)の食塩量が推奨される(推奨度1)
  1. CKDステージG3b以降で、複数回の検査でHb値10 g/dL未満となった患者には、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent 、ESAHIF-PH阻害薬の投与が推奨される(推奨度2)Hb値の目標下限値10 g/dLを目安とし、13 g/dL以上を目指さないこととする。
  1. 貧血のESA投与による正常化は生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、Hb 12 g/dLを超えた場合ESAを減量、あるいは休薬を考慮する(推奨度2)
  1. 貧血を有するCKDにおいて鉄欠乏が認められれば鉄剤を投与することが推奨される(推奨度2)同時に鉄欠乏を来す要因の精査を必要に応じ実施する。
  1. CKDステージG3b以降患者には、アシドーシスを評価し、重曹クエン酸などのアルカリ化薬で重炭酸塩濃度22 mEq/L以上に維持することが推奨される(推奨度2)
  1. CKDステージG4以降で、将来的に腎代替療法を要すると考えられる場合には、腎代替療法の必要性、種類など適切な情報提供を行う(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報 
ポイント:
  1. 慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)の定義:2002年にK/DOQIが定めた定義が使われている[2]
  1. NKF‒K/DOQI により2002年に提唱されたCKDの重症度分類は、2002、2009、2011、2020年の見直しを経て、現在、日本人用に改変された定義が用いられている。2017年時点で世界に6億9750万人(人口の9.1%)のCKD患者がおり[3]、日本では20歳以上人口の14.1%がCKDに該当する。したがって、CKDは、頻度の高い状態で、早期発見と病気の進行の予防を主眼にした管理が必要となる。
  1. CKDの頻度は高齢者ほど高い。2015年のわが国のCKD患者数は1480万人と推計され[4]、2005年からの増加の主因は高齢者人口の増加である。CKDは高齢者で頻度が高く、その多くは腎硬化症(腎内小動脈や細動脈の硬化性病変による腎障害)が主体と思われる[4][5]
  1. なお、GFR 45 mL/分/1.73 m2未満の患者では、全死亡、心血管死亡、末期腎不全への進行および急性腎障害の罹患率が急激に増加することも知られている。末期腎不全、心血管疾患(cardiovascular disease、CVD)の発症の危険は糸球体濾過量(GFR)が低下するほど高くなり、尿蛋白(尿アルブミン)が増加しても高くなる。そのため、CKDの重症度はGFRと尿蛋白(尿アルブミン)によって定義づけられている。
 
CKDの重症度分類
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GFRと尿蛋白(アルブミン)量でCKDの重症度(末期腎不全と心血管疾患のリスク)を色分けして表している。日本では尿中アルブミンは糖尿病腎症のみ保険適用があるため、糖尿病以外では尿蛋白を使うように表に追加している。赤のところは緑のところに比べて、心血管疾患の発症は数倍から10倍程度であるが、高度低下~末期腎不全の発症は、数百倍から千倍にもなる。

 

出典

日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023、p.4、表2、東京医学社、2023
 
問診・診察のポイント 
  1. CKDは血清クレアチニン測定と尿検査で、簡便に診断できる。それゆえ、このような概念が提唱された。診断後の治療・管理を適正に行うためには以下の3ステップに沿って評価を行うことが必須である。
  1. CKDの定義に従い、腎障害の指標[蛋白尿(0.15 g/24時間以上;0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上;30 mg/gCr以上)、尿沈渣の異常、尿細管障害による電解質異常やその他の異常、病理組織検査による異常、画像検査による異常、腎移植の既往)]、腎機能の低下(GFR60 mL/分/1.73 m2満)のいずれかが3カ月を越えて持続する場合CKDと診断する。
  1. 1:CKDの診断と重症度判定(重症度分類にしたがう)
  1. 尿蛋白(アルブミン)量の定量検査(必ず、尿中クレアチニン濃度で補正もしくは1日蓄尿
  1. 血清クレアチニンの測定と推算GFR(eGFR)の計算
  1. 血清クレアチニン値は、食事中の蛋白質の影響を受けるため、再検時には、12時間以上タンパク質の摂取を控えるなどの対応が必要である。
  1. 高齢者においては、体格やサルコペニアの頻度を考慮すべきである。クレアチニンベースのeGFRは、サルコペニアを有する場合、GFRを過大評価してしまう。
  1. 正確なGFRの評価にはクレアチニンとシスタチンCの同時算定によるeGFRによる腎機能の判定が望ましい。
  1. また尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の算定にあたっては、筋肉量の減少とともに、偽に高くなるので注意が必要である。
  1. 2:原疾患の鑑別(CKDに至った原因を探る。狭義の腎疾患[IgA腎症、膜性腎症、腎硬化症など]または二次性腎疾患[糖尿病性腎症、ループス腎炎など])
  1. 3:合併症と危険因子の有無と評価(①高血圧、②脂質異常、③肥満、④糖尿病、⑤メタボリックシンドローム、⑥高尿酸血症、⑦貧血など)
  1. 上記1~3を常に念頭に置きながら病歴を取り、身体診察を行う。
  1. 血圧(程度、左右差)
  1. 血管雑音(頚部、腹部など)
  1. 貧血の有無
  1. 胸部聴診(心雑音、脈不整、肺雑音の聴取)心拡大の有無
  1. 腹部で腫大した腎臓または膀胱に触れないか
  1. 浮腫の有無

診断方針 

想起 スクリーニング 
  1. 過去の健診異常の確認(記憶だけでなく、実際の健診結果で検尿異常の有無、腎機能の確認をする)。
  1. 高齢者、高血圧患者、肥満のある患者ではCKDの可能性がある。
  1. 糖尿病、全身性エリテマトーデスの患者では腎合併症(CKD)を認める可能性が高い。
  1. 特に高血圧、糖尿病、心血管病、HIV感染症C型肝炎の既往を認める患者、腎疾患の家族歴を認める患者、脂質異常症メタボリックシンドローム高尿酸血症痛風(尿酸塩沈着症)、喫煙など心血管疾患のリスクファクターを認める患者では、健康診断や診察時に腎機能障害の有無を評価することが望ましい。
診断 
ポイント:
  1. 下記のCKDの定義に沿って診断する。
 
CKDの定義:
  1. 下記の1か2が3カ月を越えて持続する場合は、CKDとする。
  1. 1:腎障害の指標 → 蛋白尿(0.15 g/24時間以上;0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上;30 mg/gCr以上)が重要
  1. 尿沈渣の異常
  1. 尿細管障害による電解質異常やその他の異常
  1. 病理組織検査による異常
  1. 画像検査による異常
  1. 腎移植の既往
  1. 2:GFRの低下 糸球体濾過量(GFR)<60 mL/分/1.73 m2
 
CKD診断のための評価
  1. 診断と重症度評価のために、尿検査、血清クレアチニン検査、尿中クレアチニン値と尿蛋白または尿中アルブミンの同時定量を行う。
  1. 血清クレアチニン値と年齢および性別からeGFRを計算する。ただし、サルコペニアの合併時、特に高齢者では血清シスタチンCの値からeGFRを計算したほうがより正確になる。
  1. 腎機能の推定方法(eGFR,推定CCr)
 
  1. 日常診療において、日本人のGFRは以下の推算式で算出する(eGFR)。
    eGFR(mL/分/1.73
     m2)=194×Cr-1.094×Age-0.287(女性は×0.739)
    CKDを疑う患者ではGFRと蛋白尿定量検査から重症度を評価することが強く推奨される(推奨度1)
  1. 413人のイヌリンクリアランス(GFRのゴールドスタンダード)からGFRの推算式を導いた。この推算式では血清クレアチニン、年齢、性別の3つの要因からGFRを計算できるようになっており、350人で検証が行われた。これが現在の日本で標準使用されるGFRの推算式となっている。血清クレアチニンから計算したeGFRをeGFRcreatに表す(O)[6]
 
  1. CKDの早期発見・予防・治療標準化進展阻止に関する調査研究班は、イヌリンクリアランス(GFRのゴールドスタンダード)と血清シスタチンC濃度からGFRの推算式を導いた(O)[7]。シスタチンCを用いて計算したeGFRをeGFRcysと表す。筋肉量の多い人や少ない人では血清クレアチニンを用いたeGFRより正確である(推奨度1)
    男性:eGFRcys(mL/分/1.73
     m2)=104×Cys-C-1.019×0.996年齢(歳)-8
    女性:eGFRcys(mL/分/1.73
     m2)=104×Cys-C-1.019×0.996年齢(歳)×0.929-8
    Cys-C:血清シスタチンC濃度
    mg/L
  1. 血清CysC に基づくGFR 推算式の正確度は血清Cr に基づく推算式と同程度であるが、血清シスタチンC 値は筋肉量や食事、運動の影響を受けにくい特徴がある。そのため、筋肉量が極端に少ない患者(四肢切断やサルコペニアなど)や筋肉量が極端に多い症例(アスリートなど)ではeGFRcreatよりeGFRcysのほうがより実際のGFRに近い値となる。
  1. 抗癌剤や抗菌薬の投与で、腎機能にあわせた投与量の微調整が必要な場合には、eGFRcreatではなく、eGFRcysで計算するか、イヌリンクリアランスによるmGFRの測定が望まれる。
  1. 国際的には2021年に発表された人種を問わないCKD-EPI eGFR cre-Cys式[8]も日本人では過大評価となるために日本人係数0.908が必要である。
  1. 最も正確なGFRの評価は、(eGFRcre+eGFRcys)÷2である。
 
  1. 尿蛋白およびアルブミンの評価:糖尿病を認めない場合は、尿蛋白と尿中クレアチニンを同時に測定して、クレアチニン1 g当たりの尿蛋白量(g/gCr)を計算する。また、糖尿病を認める場合は、尿中アルブミンと尿中クレアチニンを同時に測定してクレアチニン1 g当たりのアルブミン量(mg/gCr)を計算する。(日本では尿中アルブミンは糖尿病のみ保険適用(尿中アルブミン検査は糖尿病患者に対する、早期腎症発見目的での適応であり、糖尿病性腎症確定後には適応ではない)があるため、糖尿病以外では尿蛋白を使って評価する。尿中アルブミンと尿中クレアチニンを同時に測定して、その比を出すことのできる試験紙(オーションスクリーン®:アークレイ株式会社、エームス尿試験紙:シーメンスヘルスケアなど)がある。この試験紙はCKDであれば糖尿病でなくても保険適用される。目視でA1、A2、A3の評価が可能である。)
 
  1. 治療介入による蛋白尿・アルブミン尿の減少の程度は、CVD発症の抑制と相関がある。このため、随時尿における定量試験では、同時に尿中Crを測定して、尿アルブミン/Cr比または尿蛋白/Cr比を求めて評価する。尿アルブミン/Cr比30 mg/gCr以上または尿蛋白/Cr比0.15g/gCr以上であれば適切な治療を開始することが強く勧められる(推奨度1)
 
  1. 診断、重症度評価を行う。GFRによるステージをGで表し、尿蛋白(または尿アルブミン)によるステージをAで表す。GとAのステージの組み合わせでCKDの重症度が定義されている。(重症度評価参照: >詳細情報 )
  1. これらの検査の結果、上記のCKDの定義に沿って診断をする。G3a~G5または、A2~A3のいずれかが3カ月を越えて持続する場合はCKDの診断となる。
  1. なお、試験紙法での目安では、-がA1、±がA2、1+~がA3に相当する。
  1. 試験紙法による蛋白尿では一過性の陽性者が多いので、再検査ならびに定量検査の併用が有用である[4][9]
 
  1. 注)尿蛋白(±)の扱いについて
  1. 従来、尿蛋白(±)は陰性と同様に扱っていたが、尿蛋白(±)の中に尿蛋白ステージA2がかなりの割合で含まれていることが分かった。そのため、尿蛋白(±)では陰性と考えず慎重に対処する必要がある。健診では生活習慣の改善・指導を行い、翌年も尿蛋白(±)であれば医療機関受診が勧められている[10]医療機関では尿蛋白(±)では必ず尿蛋白(アルブミン)と尿クレアチニン定量して、その比をとって評価する。
  1. 参考:希釈尿では試験紙法の±の54.7%がA2、8.1%がA3、逆に濃縮尿では±の37.2%、≧+の8%がA1であるとの報告もある[11]
 
血尿の評価:
  1. 尿潜血反応陽性の場合には尿沈渣にて赤血球の存在を確認する。赤血球を認めれば血尿である。その場合、赤血球形態や円柱(赤血球円柱、上皮円柱、顆粒円柱など)により、血尿が糸球体由来と考えられれば腎臓内科へコンサルトする。尿中の変形赤血球の糸球体疾患診断における感度は52%、特異度は98%とされている[12]。血尿とともに蛋白尿陽性の場合も、糸球体疾患である可能性があるため腎臓内科へコンサルトする。
疾患の除外 
  1. CKDは、上述の定義で定義される病態であり、定義を満たさない場合は除外となる。

治療方針 

原因疾患の評価 
ポイント:
  1. CKDの治療を行う場合、原疾患を明らかにする必要がある。
  1. 原疾患が明らかとなった時点で原疾患の治療を優先し、同時にCKDの共通する進行危険因子に対する治療を行う。
  1. 近年のCKDは高齢者が多く、CKDの原疾患以外に、様々な腎障害進行リスクとなる併発症を有していることが多い。これらの検討も同時に実施する必要がある。
  1. 尿蛋白1 g/gCr以上では狭義の腎疾患(IgA腎症、膜性腎症など)の可能性が高く、腎機能の予後も悪い可能性がある。腎生検の適応を慎重に判断する。
  1. 尿蛋白(アルブミン)量が多いこととGFRが低いことは、腎予後および心血管疾患の発症の共通の危険因子である。
  1. GFRについては、値そのものよりも経時的な変化を重視すべきである。3カ月以内に30%以上低下する場合、年間5以上mL/分/1.73 m2の低下は要注意である。
  1. 原疾患とCKD重症度を合わせて、以下の様に表記すべきである。
  1. CKD G3aA2(IgA腎症)
  1. CKD G4A3(糖尿病性腎症)
  1. CKD G4A1(腎硬化症)
 
原因疾患の評価:
  1. ポイント:
  1. 原因疾患あるいは臨床症候として、蛋白尿陰性~軽度陽性で高齢者、長期の高血圧の病歴があれば腎硬化症、虚血性腎症、蛋白尿>0.5 g/日では糖尿病性腎症の初期、慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)、蛋白尿>3.5 g/日のネフローゼ症候群(微小変化型ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、膜性腎症、IgA腎症、ループス腎炎など)、排尿異常や腰痛を伴う場合には腎後性腎不全(両側尿路結石、後腹膜線維症、尿路悪性腫瘍など)、多発性囊胞腎などである。ほかに血管炎、膠原病に伴う腎疾患(ループス腎炎など)悪性腫瘍の合併時の腎障害などがある。
  1. これらの疾患を尿所見(24時間蓄尿による蛋白尿排泄量)、エコー所見、病歴などにより評価し、必要に応じて下記の代表的な全身疾患に伴う二次性CKDの鑑別のための評価例および代表的な遺伝性CKDの鑑別のための評価例に記載の検査を追加する。
 
CKDの原因疾患の鑑別と治療方針
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出典

木村健二郎先生ご提供
 
 
鑑別疾患表:
頻度高
  1. 腎硬化症
  1. 糖尿病性腎症
  1. 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)
  1. 虚血性腎症(腎硬化症+腎動脈狭窄症)
  1. 腎後性腎不全
  1. ネフローゼ症候群を来す腎疾患(微小変化型ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、ループス腎炎など)
比較的まれ
糸球体疾患:
  1. 巣状糸球体硬化症
  1. 膜性腎症
  1. 膜性増殖性糸球体腎炎
 
全身性疾患に伴う糸球体疾患:
  1. アミロイドーシス
  1. ループス腎炎
  1. 血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(ウェジナー)(GPA)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(EGPA))、くすぶり型の場合には、CKDとなる
  1. 糖尿病性腎臓病(DKD)という病名について
  1. 糖尿病性腎症(diabetic nephropathy、DN)は、もともと糖尿病性糸球体硬化症という組織学的特徴を有する腎疾患に対する病名であった。しかし、臨床現場では糖尿病を合併したCKDで臨床的にほかの腎疾患が強く疑われない場合にDNと診断していたのが現実である。一方、以前から糖尿病性腎症の典型例とされる経過(微量アルブミン尿→顕性アルブミン尿→GFRの低下)と異なり、顕性アルブミン尿を伴わないままGFRが低下する患者の存在が知られていた。最近になって、このような非典型例が世界的に増加していることが示された。これらの非典型例には加齢や高血圧・脂質異常を背景とした動脈硬化(腎硬化症)が関与していると考えられている。このようなことから、欧米ではこれまで使用してきたDNに代わり、非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む概念であるdiabetic kidney disease(DKD)という病名が使用されるようになった。日本においても日本腎臓学会と日本糖尿病学会の合意のもとDKDに「糖尿病性腎臓病」という日本語名を当てて使用することになった(日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」[13])が、2023年時点では糖尿病性腎症と混同しやすいため、DKDの日本語病名は糖尿病関連腎臓病という呼称へと変更が検討されている。
 
 
遺伝性腎症:
  1. 常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)
  1. アルポート症候群、Fabry病
 
泌尿器科系疾患:
  1. 閉塞性尿路疾患
  1. 前立腺肥大症など
  1. 膀胱尿管逆流症
 
  1. 代表的な全身疾患に伴う二次性CKDの鑑別のための評価例
  1. 糖尿病(網膜症、神経障害の有無、血糖管理不良)、全身性エリテマトーデス(抗核抗体、抗dsDNA抗体、C3、C4など)、多発性骨髄腫(血清M蛋白、尿中Bence-Jones蛋白など)、悪性腫瘍(便潜血、消化管内視鏡検査、腫瘍マーカーなど)の鑑別が大事である。
  1. 代表的な遺伝性CKDの鑑別のための評価例:
  1. 家族歴、多発性囊胞腎(腎超音波検査)、Fabry病(α-ガラクトシダーゼ活性)、Alport症候群など
  1. 薬剤性CKDの薬剤例:
  1. 解熱鎮痛薬の連用、ビタミンD 製剤、カルシウム製剤、抗菌薬、シスプラチン製剤などの薬剤は腎障害を生じる可能性があるため、注意して使用する。
 
腎生検:
  1. ポイント:
  1. 腎生検は主に糸球体疾患の病理組織診断を行うために必須の検査である。
  1. 腎生検はびまん性の腎疾患の形態学的な確定診断に必要な評価方法である。しかし、侵襲的な評価方法であるため、適応と禁忌を理解し、実施は慎重に検討しなければならない。
 
  1. 以下のような場合、腎生検の施行を考慮する必要がある(推奨度2)
    1.
    タンパク尿のみが陽性の患者:1日尿蛋白が1 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比1 g/gCr以上が継続する場合1日尿蛋白が0.5 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合で、遺伝性腎炎、異常蛋白(Mタンパク)に伴う腎臓病を積極的に疑う場合。起立性蛋白尿や一過性蛋白尿が否定された場合にも腎生検を考慮する。
    2タンパク尿血尿の双方を伴う場合
    3.尿潜血のみ陽性の患者:尿沈渣に変形赤血球が多く存在する場合で腎不全の家族歴や感冒時の肉眼的血尿などIgA腎症、菲薄基底膜病、Alport症候群を積極的に疑う場合
  1. 腎生検ガイドブック2020参照
 
 
  1. 適応:
  1. 超音波検査で腎の萎縮がなく、腎組織をみることにより治療上のメリットが大きく、かつ禁忌事項がないと判断したときには積極的に腎生検を考慮する。
  1. 高齢者で尿蛋白陰性(A1)でGFRのみ低下している場合は腎硬化症が疑われる。この場合は腎生検の適応は少ない。
  1. 糖尿病合併CKDでは、糖尿病性腎症以外の腎臓病を疑う場合には積極的に腎生検を考慮する。
  1. 腎生検のハイリスク因子
  1. 1:出血傾向(ワーファリンや抗血小板薬服用中の場合は薬剤中止後適正な間隔をおいて実施)
  1. 2:単腎、萎縮腎(必要なら開放腎生検や鏡視下腎生検は可能)
  1. 3:息止めのできない患者
  1. 4:非協力的/安静が保てない患者
  1. 合併症
  1. 血腫、動静脈瘻、感染症などが合併症としてみられる。その頻度は対象となる疾患や手技により異なるが、それぞれ0.89%、0.11%、0.18%との報告もある[14]
合併症の評価 
ポイント:
  1. 合併症としては、CKDの成因に関係する合併症とCKDの進行による合併症があり、それぞれの評価が必要である。
 
介入可能なCKDの発症ならびに腎機能悪化進行の危険因子の評価:
  1. CKD発症・進展の危険因子(高度蛋白尿、高血圧、脂質異常、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム高尿酸血症、便秘、貧血など)を明らかにする。
 
CKDの成因に関係する合併症の評価:各原疾患の項を参照のこと
  1. 二次的にCKDを来し得る病態(糖尿病、長期の高血圧症、全身性エリテマトーデス、多発性骨髄腫など)の診断
  1. 腎動脈狭窄の有無(超音波ドプラー法)
  1. 動脈硬化性変化、高血圧性変化、糖尿病性網膜症の評価(眼底検査)
  1. 多発性囊胞腎に合併する脳動脈瘤の診断(MRA)
  1. 皮膚病変などの評価(白血球破砕性血管炎、アレルギー性紫斑、網状皮斑、潰瘍、被角血管腫など)
 
CKDの進行に伴う合併症(保存期慢性腎不全の合併症):
  1. 代謝性アシドーシスの有無:重炭酸塩濃度測定または動脈血ガス、静脈血ガス(HCO3-濃度のみ有用)
  1. 腎性貧血の有無:
  1. Fe、TIBC、フェリチンも測定し、鉄欠乏の有無は必ずチェックする
  1. 慢性腎臓病に伴う⾻ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の状態:
  1. 血清Ca、P、血漿intact-PTH
  1. 心疾患、心不全など:
  1. 胸部X線検査(後→前、側面)、ECG、心臓エコー検査
 
尿毒症症状の出現:
  1. CKDの進行に伴い、本来腎臓から排泄されるべき様々な尿毒症物質蓄積に伴う合併症がある。
  1. 具体的には、血小板機能低下による出血傾向、嘔気、嘔吐などの消化器症状、末梢神経障害によるしびれ。体液量増加に伴ううっ血性心不全、末梢血管透過性亢進に伴う肺水腫(尿毒症肺)、尿毒症性心外膜炎による心タンポナーデ
 
  1. 尿毒症物質について:
  1. 尿毒症は、健常な腎臓から排泄されるべき生体内の不要な化合物が、腎不全により蓄積することにより生じる。この化合物が生物学的機能あるいは生化学機能に悪影響を及ぼす場合、尿毒症毒素とされる。
  1. 尿毒症毒素はその分子量やたんぱく質との結合性から主に3つに分類されている[15]。すなわち、①尿素に代表される、水溶性小分子量物質(分子量<500Da)でグアニジノ化合物であるメチルグアニジン(MG、分子量73Da)やグアニジノコハク酸(GSA、分子量175Da)などは、消化器症状、中枢神経症状、末梢神経障害、貧血、血小板機能低下などを呈する[16]。②β2ミクログロブリンに代表される、中分子量物質(分子量>500Da)で、β2ミクログロブリンは長期透析患者の合併症である透析アミロイドーシスの前駆物質として知られている[17]。③インドキシル硫酸やホモシステインに代表される蛋白結合物質が知られており、インドキシル硫酸(分子量251Da)は腸管内で蛋白の加水分解により生成したトリプトファンから、大腸菌などに含まれるトリプトファナーゼによってインドール代謝される。インドールは腸管から吸収され肝臓で酸化されインドキシルとなり、さらに硫酸抱合によりインドキシル硫酸となり血中に放出される。インドキシル硫酸は約90%がアルブミンと結合しており慢性腎不全で腎クリアランスが低下するため、血中濃度が著明に上昇する。インドキシル硫酸は腎不全を進行させる因子としても知られ、経口吸着剤(AST-120:クレメジン)を投与しインドキシル硫酸の前駆物質であるインドールを腸内で吸着し血清および尿中インドキシル硫酸の濃度を低下させることで、腎機能障害の進行を抑制する可能性がある。
重症度・予後 
ポイント:
  1. 尿蛋白量(g/gCr)または尿アルブミン量(mg/gCr)とeGFRで重症度を判定する(表1<図表>)。
  1. 尿蛋白量の多い例>0.5(g/gCr)、経時的に腎機能の低下(3カ月以内に30%以上、1年で>5 mL/分/1.73 m2以上低下)する例、急性腎障害を併発した場合では腎機能予後の悪い可能性が高い。尿蛋白量と低いeGFRは、心血管疾患の危険因子でもある。
  1. CKDに至った原因の重症度が予後に大きく影響するので、原疾患の病態の正確な把握も重要である。
 
CKDの重症度
  1. G区分
  1. G1:GFR≧90
  1. G2:GFR 60~89
  1. G3a:GFR 45~59
  1. G3b:GFR 30~44
  1. G4:GFR 15~29
  1. G5:GFR<15
  1. GFRの単位はmL/分/1.73 m2 (体表面積1.73 m2で補正した値)
  1. A区分
  1. A1:<0.15(<30)
  1. A2:0.15~0.49(30~299)
  1. A3:≧0.5(≧300)
  1. 蛋白定量g/gCr(またはg/日)、( )内はアルブミン定量 mg/gCr(またはmg/日)
  1. CKDはCGA分類を行う(C:原因疾患、G:GFR、A:尿蛋白量(尿アルブミン量))。例えば、IgA腎症が原因によるCKDで糖尿病合併している場合でGFR 42 mL/分/1.73 m2で尿蛋白が1.2 g/gCrであれば、「IgA腎症によるCKD G3bA3、糖尿病合併あり」と表現する。また腎予後に影響するため原疾患を示し、合併症がある場合にも注意喚起するための配慮が必要である。
 
予後:
  1. GFR 45 mL/分/1.73 m2未満まで進行した場合、尿蛋白が0.5 g/gCr以上の状態では全死亡、心血管死亡、末期腎不全への進行、急性腎障害の発症率が急激に増加する[18]
  1. 糸球体障害においては蛋白尿の程度が予後と関連することが知られている。尿蛋白定量検査を適宜実施し、経時的な増加のあるときには腎臓専門医との相談が必要である。
 
CKDの各ステージにおける心血管死亡・末期腎不全のオッズ比
画像

 

ACRは、尿中アルブミン/尿中クレアチニン比(mg/gCr)

 

治療 
ポイント:
  1. 年間のeGFR低下が5以上、尿蛋白量の増加など経時的な腎機能、重症度の進行、進行のリスク因子のコントロール困難など必要に応じて腎臓専門医と相談しながら、介入可能なCKD危険因子の治療を行う。
  1. 脱水、過降圧などによる急激な血圧低下、薬剤性腎障害など急性腎障害を発症した場合には腎臓専門医と相談のうえ、対応する。
  1. 一次性の糸球体腎炎あるいは二次性腎疾患でも疾患の活動性コントロールに難渋する場合、ネフローゼ症候群を呈する場合などには、その疾患に応じて専門的治療を行う。
  1. IgA腎症
  1. 膜性腎症
  1. 糖尿病性腎臓病(糖尿病性腎症)
  1. ループス腎炎
  1. 尿所見が軽微、経年的な腎機能の変化が軽微な場合などでは、CKDの重症化、腎機能の悪化因子などを明らかにして、介入可能なものに対しては適切な治療を行う。
  1. 適切な生活運動指導、食事指導が必要で、生活習慣の改善には複数の医療従事者による教育指導が有効である[19]
  1. また、必要に応じて適切な時期に専門医への紹介を行う。(詳細:「専門医相談のタイミング: >詳細情報 」)
 
緊急対応:
  1. CKDで以下を認める場合は、急性腎障害(AKI)が合併した可能性を考え、緊急対応を行う。
  1. 48時間以内にSCr値が≧0.3 mg/dL 上昇した場合
  1. SCr値が7日前以内の既知あるいは予想される基礎値より≧1.5倍の増加があった場合
  1. 尿量が6時間にわたって<0.5 mL/kg/時間に減少した場合
 
  1. 腎臓リハビリテーションとは腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムである。単に運動療法を行うことをさすのではなく、リハビリテーション本来の意味であるCKD患者の日常生活への復帰を促し、社会生活継続のサポートを様々な専門的医療従事者が協力して実施するものである[20]
  1. すべてのCKD患者に対し、CKDのステージに応じた腎臓リハビリテーションの実施が望ましい。
 
介入可能なCKD危険因子[21][22]
  1. 高血圧
  1. 脂質異常
  1. 肥満
  1. 糖尿病
  1. メタボリックシンドローム
  1. 高尿酸血症
  1. 代謝性アシドーシス
  1. 貧血
  1. 腎毒性物質(抗菌薬、NSAIDs、抗がん剤など)への曝露
  1. 喫煙
  1. 便秘
  1. その他
 
介入不可能なCKD危険因子
  1. 加齢
  1. 低出生体重
  1. 腎容積減少(先天的あるいは手術による)
  1. その他
介入可能なCKD危険因子への介入 
医療連携:
  1. 近年増加している生活習慣病関連の疾患が原因によるCKD患者では、CKDステージの進行を抑制する治療介入は多岐にわたる。
  1. 患者の行動変容実現のためには、患者家族ならびに看護師、保健師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師など様々な職種の医療従事者と共同して治療に当たることが有効である[19][23]
SGLT阻害薬:
  1. SGLT2阻害薬は、糖尿病合併・非合併にかかわらず、アルブミン尿(蛋白尿)の有無にもかからず、CKD患者において腎保護効果を示すため、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的に使用を検討する。
  1. 推算GFR 15 mL/分/1.73 m2未満では新規に開始しないが継続投与して15 mL/分/1.73 m2未満となった場合には、副作用に注意しながら継続する。
  1. 食事摂取量の不足、栄養不良状態、飢餓状態、激しい筋肉運動、過度のアルコール摂取、副腎機能不全、下垂体機能不全、シックデイなどの状況下では低血糖や正常血糖ケトアシドーシスなどの代謝異常を生じる可能性があるため、このような場合にはSGLT2阻害薬の中止を考慮する。
  1. 食事摂取ができない手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。
  1. 利尿薬を使用しているCKD患者や血糖コントロールが極めて不良な糖尿病患者では、脱水や急性腎障害(AKI)を来す可能性があるため注意が必要である。
  1. 高齢CKD患者への投与の際には、サルコペニアやフレイルの発症・増悪に注意する。
  1. SGLT2阻害薬は糖尿病“非”合併CKD患者においても尿路・性器感染症の発症・増悪が懸念されるため、投与後は注意を払う必要がある。
 
  1. 処方例:CDK患者の治療例
 
  1. 開始後早期にeGFR の低下(eGFR initial dip)を認める場合があり、早期(2週間~2カ月程度)にeGFRを再評価する。
  1. 利尿効果があり、処方後に脱水に十分に注意し、適切な水分摂取につとめる。
  1. フォシーガ錠10mg 1錠 分1 朝食後 [慢性腎臓病]
 
高血圧:
  1. 糖尿病合併と蛋白尿陽性CKDでは診察室の血圧130/80 mmHg以下を目指す。ただし、家庭血圧では収縮期・拡張期血圧ともに5 mmHgずつ低い値を目標とする。
  1. 糖尿病合併と軽度以上の蛋白尿(尿蛋白量0.15 g/gCr以上、A2およびA3)を呈するCKD患者では、ACE阻害薬/ARBを第1選択薬にして、降圧とともに尿蛋白減少を目指す。
  1. 降圧目標に達しない場合には、長時間作用型Ca拮抗薬または少量の利尿薬(GFR 30 mL/分/1.73 m2以上ならサイアザイド系利尿薬、それ以下なら長時間作用型のループ利尿薬)を併用する。
 
  1. 処方例:軽度以上の蛋白尿(尿蛋白量0.15 g/gCr以上、A2およびA3)を呈するCKD患者の高血圧治療例
 
  1. 蛋白尿減少効果・腎保護効果の明らかなRA阻害薬で開始し、単剤では血圧コントロール不十分な場合、下記の如く併用していく。
  1. 1) ブロプレス錠 4mg 0.5~2錠 分1 朝食後 次回外来まで [腎実質性高血圧症]
  1. 2) ノルバスク錠5mg 1錠 分1 朝または夕 1カ月後適宜増量、1日10mg 分1~2まで [高血圧症]
  1. 3) ナトリックス錠1mg 1錠 分1 [高血圧症]
 
  1. 糖尿病非合併で尿蛋白陰性(A1)のCKD患者(高齢の腎硬化症が多く含まれる)では、病態に応じて降圧薬を選択する。このカテゴリーの患者の降圧目標は140/90 mmHg未満である。降圧目標に達しなければ、適宜、他の作用機序の降圧薬を併用していく。(本態性高血圧参照)
  1. eGFR<30 mL/分/1.73m2では、ACE阻害薬/ARBによる腎機能悪化や高K血症に充分に注意し、これらの副作用出現時は減量、中止も考慮されるが、CVDイベント予防や生命予後の観点から、一律中止するのでなく、可能な範囲での継続が望まれる。
  1. GFR<30 mL/分/1.73m2の75歳以上の高齢者では脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し、Ca拮抗薬を推奨する[13]
 
  1. 処方例:尿蛋白陰性、非糖尿病例のCKD患者の高血圧治療例
 
  1. 上記に基づき、下記の処方を1剤から始め、併用していく。
  1. 1) アダラートCR錠 20mg 1錠 分1 朝食後 [高血圧症]
  1. 2) アダラートCR錠 20mg 2錠 分2 朝夕食後 [高血圧症]
  1. 3) アダラートCR錠 20mg 2~4錠 分2 [高血圧症]
  1. 4) ダイアート錠 30mg 1~2錠 分1 朝 [腎性浮腫]
  1. 5) オルメテックOD錠 20mg 10~40mg 分1~2 [高血圧症]
 
  1. CKD患者を対象に異なる降圧目標によるCKD進行のリスク/心血管疾患発症のリスクを比較した11のRCT(9,287人)のメタ解析(M)[24]。尿蛋白陰性(尿蛋白0.22 g/gCr)では、厳格降圧が通常降圧より腎の複合エンドポイントを抑制したという証拠はなかった。しかし、尿蛋白陽性(0.22 g/gCr)では厳格降圧は通常降圧より腎の複合エンドポイントを抑制した。厳格降圧と通常降圧で心血管疾患や死亡に有意差はみられなかった(推奨度2)
  1. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」[1]では、糖尿病を合併していないCKDでは、目標血圧140/90 mmHg未満を推奨している。尿蛋白陽性では、目標血圧130/80 mmHg未満を推奨している。糖尿病を合併している場合には、尿蛋白陽性・陰性とも目標血圧130/80 mmHg未満を推奨している。
 
  1. ACE阻害薬やARB は、腎症の進行を抑制するため、正常血圧の患者にも血圧に注意しつつ投与することを検討してもよい(推奨度2)
  1. 複数のRCTで、ACE阻害薬やARBが正常血圧の患者でも腎症の進行を抑制することが示されている。その1つであるMakinoらの2007年の研究では、正常血圧で微量アルブミン尿を認める患者で、テルミサルタンを80 mg内服した群の11%、テルミサルタンを40 mg内服した群の21%、プラセボを内服した群の44%で、平均1.3年間のフォローアップ期間に30%以上の尿中アルブミン増量または顕性アルブミン尿を認めるようになった(R)[25]。正常血圧の微量アルブミン尿患者に対して、ACE阻害薬やARB は腎症の進行を抑制することが示されており、正常血圧の患者にも血圧に注意しつつ投与することが推奨される。
 
  1. 蛋⽩尿抑制を考慮した選択肢としてRAS阻害薬やSGLT2阻害薬の有⽤性が期待される。
 
  1. LDL-cholesterol<120 mg/dL(可能ならば<100 mg/dL)、non-HDL-cholesterol<150 mg/dLを目標に治療を開始し、生活習慣の改善で目標を達成するよう試みるが、目標に達しない場合にはスタチンなど薬物療法を行う[26]。冠動脈疾患の既往がある場合や二次予防の場合はLDL-C<100 mg/dL、non-HDL-C<130 mg/dLを目標にする[27]。CKD患者におけるエビデンスはないが、CKDは明確な冠動脈疾患の危険因子なので、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」に準拠する値を提案する[13]
 
  1. 処方例:CKD患者の脂質異常症の治療例
 
  1. 1) リピトール錠 10mg 1錠 分1 朝食後 次回外来まで [コレステロール血症]
  1. 治療の詳細は、高LDLコレステロール症 の項を参考にしてほしい。
 
肥満:
  1. 食事と身体活動の改善により適正体重を維持する。
  1. 治療の詳細は肥満の項を参考にしてほしい。
 
  1. CKD患者の高尿酸血症の薬物治療には尿酸生成阻害薬と尿酸再吸収阻害薬がある。腎機能障害時の高尿酸血症では、尿酸排泄低下によることが多いが、治療にはアロプリノールに代表される尿酸生成阻害薬がおもに使用されてきた。
  1. 日本人のコホート研究において、血清尿酸値は血清Cr 値の上昇と関連しており、また、特に女性において高尿酸血症(尿酸値6.0 mg/dL以上)は末期腎不全の危険因子であることが報告されている[28]高尿酸血症の治療はCKD患者における腎機能低下を抑制し、蛋白尿を減少させる可能性がある[1]。また、いくつかの臨床研究のメタ解析ではアロプリノールによる尿酸低下療法はCKDの進行を抑制する可能性がしめされた[29][30][31][32]。ドチヌラドは新規に開発された尿酸再吸収阻害薬で尿酸値低下には有用であるが、腎機能への影響などエビデンスにとぼしい。尿酸低下治療のCKDにおける有益性とリスクを評価するためには、充分なパワーをもった無作為化試験が必要とされている。
  1. フェブキソスタットとトピロキソスタットは日本で開発された高尿酸血症治療薬で、アロプリノールのように腎機能低下時に投与量を減量する必要はない。そのため、これらの薬剤を用いたCKDを対象とした臨床試験が行われている。FEATHER研究はCKDステージG3の日本人患者を対象とした大規模な二重盲検RCTであるが、フェブキソスタットによる腎機能低下抑制効果は証明できなかった[33]
 
  1. 処方例:CKD患者の高尿酸血症の治療例
 
  1. 高尿酸血症を認める場合は、以下のいずれかにて治療を開始する。
  1. 1) フェブリク錠 10mg 1日1回10mgより開始し徐々に増量、40mgを維持量とする [高尿酸血症]
  1. 2) トピロリック錠20mg 1回20mg 1日2回より開始し、1回60mg 1日2回の維持量へ徐々に増量する [高尿酸血症]
  1. 3) ユリス錠0.5mg 1回0.5mgから開始し徐々に増量。尿酸排泄促進薬のため、CKDステージG4以降は他の薬剤を考慮 [高尿酸血症]
  1. 治療の詳細は高尿酸血症の項を参考にしてほしい。
 
代謝性アシドーシス
  1. 重炭酸濃度が低い群は高い群に比べて末期慢性腎不全に至る危険性が高く、CKDステージG3以降の患者で重炭酸濃度が21 mEq/Lに低下した場合には重曹の投与を行い、24 mEq/L前後を目標に調節することで腎機能悪化の抑制が期待できる[34][35]
  1. 重曹投与量が増えるに従い、体液貯留、浮腫発症の危険性高く、体重変化など経過観察には注意が必要である。
 
  1. 処方例:代謝性アシドーシスの治療例
 
  1. 炭酸水素ナトリウム 1.5g 分3 食後 適宜増減 [アシドーシス]
 
糖尿病:
  1. 糖尿病を認める場合は、HbA1c7.0%未満を目標に血糖コントロールを行う。ただし、血糖管理は早期腎症から顕性腎症への進行は抑制するが、顕性腎症以降の進行抑制に関するエビデンスは不十分であり、個々の患者の状況に合わせ個別に管理目標を設定する[1]
  1. SGLT2阻害薬は腎機能低下の進展抑制およびCVDイベント発症(心不全)と死亡の発生抑制が、期待できる。
  1. 治療の詳細は2型糖尿病糖尿病性腎症の項を参考にしてほしい。
 
貧血の治療:
  1. Hb 10~13 g/dLを目標とし、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent、ESA)やHIF-PH阻害薬を投与する。治療薬の選択やHb値目標については個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断する[1]
  1. フェリチン<100 ng/mL(μg/L)またはTSAT(Fe/TIBC)<20%では鉄欠乏の可能性があるため、クエン酸第一鉄(フェロミア)、硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)などの鉄剤の投与も行う。
  1. HIF-PH阻害薬としての使用にあたっては日本腎臓学会より公表された、「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に従い使用することが勧められる。
  1. 十分な鉄補充の後 HIF-PH阻害薬を用いて管理する。
  1. 事前に悪性腫瘍、網膜病変の検査を行い、合併がないか、適切な治療がなされているかを確認したうえで開始する。
  1. 虚血性心疾患、脳血管障害や末梢血管病(閉塞性動脈硬化症や深部静脈血栓症など)のある患者については、そのリスクを評価したうえで適応の可否を慎重に判断する。 
  1. 多発性囊胞腎患者にHIF-PH阻害薬を投与する場合は、嚢胞増大を促進する可能性があり、投与中は少なくとも年に1回は画像検査による経過観察を行うこと
  1. ESAとHIF-PH阻害薬の併用は想定されておらず、行うべきではない。
 
  1. 処方例:CKD患者の貧血の治療例
  1. Hb 10~13 g/dLを目標としESAかHIF-PH阻害薬いずれかを投与する。TSAT≦20%またはフェリチン<100 ng/mLを認める場合は、フェロミアまたはフェロ・グラデュメットを併用する。
  1. 1) ネスプ注射液10μgプラシリンジ 30~120μg 皮下注 2~4週に1回 [腎性貧血]
  1. 2) ミルセラ注シリンジ25μg 25~250μg 皮下注 4週に1回 [腎性貧血]
  1. 3) バフセオ錠300mg 1錠 分1 [腎性貧血]
  1. 4) ダーブロック錠2mg 1~2錠 分1 [腎性貧血]
  1. 5) フェロミア錠50mg 1~4錠 分1~2 食後 次回外来まで [鉄欠乏性貧血]
  1. 6) フェロ・グラデュメット錠105mg 1~2錠 分1~2 食間 次回外来まで [鉄欠乏性貧血]
  1. 治療の詳細は腎性貧血の項を参考にしてほしい。
 
  1. 保存期慢性腎臓病で、複数回の検査でHb値10 g/dL未満となった患者には、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent、ESAやHIF-PH阻害薬の投与が推奨される(推奨度2)
  1. 2型糖尿病性腎症の進行をARBであるロサルタンが抑制したことを示したRENAAL研究(Reduction of Endpoints in Non-insulin-dependent diabetes mellitus with Angiotensin II Antagonist Losartan)のMohanramらのサブ解析がある。これによると、末期腎不全の発症頻度は貧血が進行するほど上昇することが示されている。また一般住民(米国)においてはCKDや心不全は生命予後悪化因子であるが、それに貧血が合併すると、さらに生命予後が悪化するということも示されている(O)[36]。したがって、貧血はCKDのみならず生命予後にとっても悪化要因である。
 
  1. 貧血のESA投与による過度の改善は生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、Hb 12 g/dLを超えた場合ESAまたはHIF-PH阻害薬を減量、あるいは休薬を考慮する。また、意図的にHb 13 g/dL以上にしてはならない(推奨度2)
  1. Druekeらは、CKD患者を「目標Hb 12~15 g/dLにする群」と「目標Hb 10.5~11.5 g/dLにする群」の2群に無作為に割り付け、ESAによる加療を行った。その結果、左室重量、腎機能、心血管疾患発症に関して両群に差はみられなかったが、Hb高値群のほうがQOLは高かった(R)[37]。また、Singhらは目標Hbを「13.5 g/dL」と「11.3 g/dL」の2群に割り付けた。その結果、複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞心不全による入院、脳卒中)に達する率は、明らかにHb高値群で高かった(R)[38]。これらの臨床研究から、CKDでは、Hbを正常化することは必ずしも生命予後にとってよい結果をもたらさないことが明らかになった。わが国ではESAの投与による、PREDICT研究[39]として、目標Hb 11-13 g/dLと9-11 g/dLの2群に割り付けた前向き介入研究とRADICANC-CKD研究[40]として、Hb 11 g/dL以上を目指す群とエントリー時のHbを維持する前向き介入研究の結果が報告され、いずれも高いHb群での腎予後、心臓血管イベントに差がなかった。そこで、現在のガイドラインの目標Hb値が設定された。
 
  1. 貧血を有するCKDにおいて鉄欠乏が認められれば鉄剤を投与することが推奨される(推奨度2)
  1. これに関しては明確なエビデンスは出されていないが、臨床的な経験からのエキスパートオピニオンである。
 
浮腫への対応:
  1. チアジド系利尿薬を用いて降圧および浮腫の軽減を期待することができる。
  1. GFR<30 mL/分ではループ利尿薬がより有効である。ただし、降圧のためにはダイアートのような長時間作用型のループ利尿薬が有利である。
  1. 浮腫の改善の効果に関しては通常、チアジド系利尿薬よりもループ利尿薬のほうが優れる。
  1. 軽度の浮腫なら必ずしも治療の必要はない。利尿薬による浮腫の治療では、腎機能の低下に注意する必要がある。
  1. GFRの値を参照に、チアジド系利尿薬としてフルイトランとナトリックスのいずれかを、ループ利尿薬としてラシックス、ダイアートのいずれかを用いる。浮腫に対してはループ利尿薬のほうが効果が強い。
 
  1. 処方例:CKD患者で浮腫を認める場合の治療例
  1. 1) フルイトラン錠 1mg 1錠 分1 朝食後 [高血圧症]
  1. 2) ナトリックス錠 1mg 1錠 分1 [高血圧症]
  1. 3) ラシックス錠 20mg 0.5~4錠 分1~2 朝(昼)食後 次回外来まで [腎性浮腫]
  1. 4) ダイアート錠 30mg 1~2錠 分1 朝 [腎性浮腫]
 
腎毒性物質曝露への対応
  1. NSAIDsや腎障害の原因となる可能性のある薬剤やサプリメントは極力、中止するか減量する。
  1. 禁煙指導を行う。
 
  1. 喫煙は CKD の発症および進行に関連する独立した危険因子であり、CVD の発症リスクを増加させることから、CKD 患者に禁煙指導を行うことは強く勧められる(推奨度1)
  1. CKDと喫煙の関係については次のような観察研究がある。Yamagataらは、日本人12万人の10年間の健診データからCKD発症の予測因子を解析し、喫煙はCKD発症の予測因子であるが、過去の喫煙は有意ではないことを示した(O)[21]。またStengelらは米国人9,000人の12~16年間の追跡データから、1日20本以上の喫煙は透析導入もしくはCKD関連死亡のリスクと関連することを示した(O)[41]。したがって、CKD患者には禁煙指導を行うことが勧められる。
 
尿毒症の治療:
  1. CKD患者への球形吸着炭(クレメジン)の投与によるESKD、死亡の抑制効果は明確ではないが、腎機能低下速度を遅延させる可能性があるため使用を考慮する[1][42]
 
  1. 処方例:CKD患者の尿毒症の治療例
  1. 1) クレメジン細粒 3包 分3 食間 [慢性腎不全]
 
  1. 中程度以上の腎障害を持つCKD患者には、球形吸着炭の投与を考慮してもよい(推奨度2)
  1. 球形吸着炭が腎不全による倦怠感の改善に効果があることを示したRCTが存在する。SchulmanはCr 3.0~6.0 mg/dLでインドキシル硫酸濃度が0.50 mg/dL以上の164人を、さまざまな量の球形吸着炭を投与する群に無作為に割り振った。その結果、投与量が多いほどインドキシル硫酸濃度が減少し、倦怠感などの症状の改善がみられた(R)[43]。このことより、中程度以上の腎障害を持ち倦怠感を訴える患者には、球形吸着炭6 g/日を3回に分けて投与することを考慮してもよい。なお、この研究では1日9 gまでは効果が増えることが認められている。しかし、日本では6 gまでが保険用量である。また血清Cr≦5 mg/dLの患者に投与して、GFRの低下速度が抑制されたとの報告もある(CAP-KD)[44]
 
電解質異常の治療:
  1. カリウム血症(K≧5.5 mEq/L)を認める場合は、K摂取制限を指示するとともにカリメートなどのポリスチレン、ロケルマなどのカリウム吸着薬を用いることがある[45][46][47]
  1. 心電図異常を認めるなど、緊急対応が必要な場合は、人工透析またはグルコースインスリン療法などを考慮する。
  1. 血清K値の管理目標:≧4.0 mEq/L、<5.5 mEq/Lの管理によって、総死亡・心血管疾患のリスクが低下する[1]
  1. 緊急の高カリウム血症に対してRASiを一時的に中止することは有効な治療戦略であるが、有害事象が収束した後は治療を再開することが望まれる。
  1. CKDステージG4期から血液検査に静脈血ガス分析を加え、HCO3-<21 mEq/Lの代謝性アシドーシスを認める場合は、炭酸水素ナトリウム(重曹)を投与する(1日当り1.5gから開始する)。HCO3-濃度は基準値24 mEq/L前後を目標として維持する[1]代謝性アシドーシスの補正で腎保護効果が認められるとの報告がある[34][35]
  1. カルシウム、リン、PTHに異常を認める場合は、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常と診断し、適宜治療を行う。治療方法の詳細は慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常を参照にしてほしい。
 
  1. 処方例:CKD患者の電解質異常の治療例
  1. 緊急対応の必要ない高カリウム血症を認める場合は1)-3)のいずれかを、アシドーシスを認める場合は4)を考慮する。
  1. 1) カリメート散 1~6包 分1~3 [腎不全に伴う高カリウム血症]
  1. 2) ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー20%分包25g「三和」 3~6個 分3 [腎不全に伴う高カリウム血症]
  1. 3) ロケルマ懸濁用散分包5g  初回30g 分3 2日間、以降5g分1で継続 [カリウム血症]
  1. 4) 炭酸水素ナトリウム 1.5~5g 分1~3 [アシドーシス]
 
食事療法:
  1. 適切なエネルギー量の維持、食塩制限(3 g/日以上、6 g/日未満)、たんぱく質調整(GFR 45~59(CKDステージG3a)では0.8~1.0 g/kgBW/日、GFR 45未満(CKDステージG3b以降)では0.6~0.8 g/kgBW/日)。食事内容が適切かどうかをみるには、体重の推移と管理栄養士による食事管理が必要である。可能ならば、24時間蓄尿で1日の食塩摂取量とたんぱく質摂取量を計算する。常に患者にフィードバックし、より適切な摂取量に近づける努力をする。
  1. 高齢者にとってはたんぱく質0.8~1.0 g/kgBW/日の摂取は日本人の食事摂取基準ではたんぱく質の推奨摂取量に相当する。たんぱく質摂取量については個々の患者の身体状況、栄養状態、身体機能、精神状態、生活状態を総合的に勘案し、一律にたんぱく質制限を行うことは勧められない。
  1. 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」(日本腎臓学会)、日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」、日本医療研究開発機構編「CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017」参照
 
  1. CKD患者における適度な飲酒量についての推奨は困難である。エビデンスが充分でないためアルコールの推奨量は定められない。ただし、日本では適度な飲酒はアルコールにして20 g(日本酒にして1合程度)とされている。
 
  1. ステージG3~5のCKD 患者では、腎機能障害の進行抑制、予後改善のため、病態に応じたたんぱく摂取量の調整行う必要がある。「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」および「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、0.6~0.8 g/kg/日たんぱく質制限の目安としているものの、CKD患者の年令、生活習慣、BMIおよびその変動を参考に、たんぱく質制限の優先、緩和を検討すべきである(推奨度2)
  1. CKDにおける低たんぱく質食の効果についてはさまざまな考え方がある。Fouqueらのレビューでは、CKDを対象とした8件のRCT(1,524例、低たんぱく質食群763例、コントロール食群761例)を解析し、低たんぱく質食群はコントロール食群に比して腎疾患死の相対危険度が0.69(95%CI 0.56~0.86、p=0.0007)、NNT2~56例と報告している(CS)[48]。低たんぱく質食群のたんぱく質摂取は0.2~0.7 g/kg/日であった。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、G3aで0.8~1.0 g/kg/日、G3b以降0.6~0.8 g/kg/日をたんぱく質制限の目安としている。これは、食事療法を集学的治療の1つと位置づけ、厳しい低たんぱく質食を患者に強いるより、他の治療(生活習慣改善、レニン-アンジオテンシン系抑制薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬など)と組み合わせて適正な低たんぱく質食を勧めるべきという判断である。もちろん、経験があり、患者教育を十分に行える施設では厳重な低たんぱく質食も可能である。その場合、蛋白の異化亢進を防ぐため十分なエネルギー摂取をし、必須アミノ酸欠乏を防ぐためサプリメントなどを用いるなどの配慮が必要である。サルコペニア、フレイルの合併がある高齢CKD患者が増加しており、適切な運動、日常活動の維持を考慮し、過度なたんぱく質制限にならないように注意が必須である。
  1. 蛋白摂取量の制限については、腎機能の改善ではなく腸管からのクレアチニン負荷減少の可能性が否定できず、腎機能の評価にシスタチンCによるeGFRで評価を行う。
 
  1. 食塩摂取は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかっている。したがって、CKD進行抑制のため、1日6 g未満(3 g以上)の食塩量が推奨される(推奨度1)
  1. 食塩摂取量と血圧との相関性をみた、いくつかの研究がある。SacksらのRCTでは、ナトリウム摂取量を150 mmol/日、100 mmol/日、50 mmol/日と、30日ごとに減らした(それぞれ食塩9 g/日、6 g/日、3 g/日に相当)。この結果、血圧は食塩摂取量に応じて下がった(R)[49]。また、ButerらはACE阻害薬投与下で尿蛋白量が1 g/日以上のCKD患者において、低食塩食(3 g/日)と高食塩食(15 g/日)を4週間ずつ行い、尿蛋白量の変化をみた。結果は、低食塩食時には尿蛋白は3.1 g/日、平均血圧は89 mmHg、高食塩食時には尿蛋白は4.5 g/日、平均血圧は98 mmHgであった(R)[50]。これらの研究から、食塩摂取は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかる。尿蛋白は腎疾患の症状であるが、腎疾患そのものを悪化させることがわかっている。したがって、CKDでは食塩摂取量を制限すべきである。
 
飲水:
  1. CKDのG1、G2期では、水分負荷は腎機能保持に有効であるため積極的に飲水を促す[51]。一方、CKD G3期以降では、水分負荷が生命予後、腎予後に有益性が認められないことから、通常よりも意図的に飲水量を増やすことは行うべきではない[52]
 
生活・運動:
  1. 高齢CKD患者ではCKDに関する健康教育単独に比べ、身体活動を増やす指導を追加することにより、シスタチンCによって算出されたeGFRの低下スピードの有意に抑制するなどのエビデンスがある[53]
  1. 日中の座位時間を減らし、中等度の運動負荷を増加させることで、運動能力の向上のみでなく、腎機能悪化スピードの改善も期待できる。
 
ワクチン:
  1. 感染予防の目的で、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種する[13][54][55]
 
  1. 処方例:CKD患者のワクチンの投与例
  1. 1) インフルエンザHAワクチン「生研」 1回 0.5mL 皮下注
  1. 2) ニューモバックスNPシリンジ 1回 0.5mL 皮下注または筋注
 
  1. CKDG4期に至った時点で、腎代替療法(透析療法や腎移植)に関する情報提供を行う。
  1. 透析の導入: >詳細情報 
  1. 腎移植: >詳細情報 
 
CKD ステージによる食事療法基準[56]
  1. ポイント:
  1. 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版では、以下の表の用量を患者の状態、合併症により適宜調整して用いることを推奨している。
 
CKD ステージによる食事療法基準(1)
画像

 

別表:<図表>

 

出典

日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版、p2、東京医学社、2014
 
 
CKD ステージによる食事療法基準(2)
画像

 

 

 

出典

日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版、p2、東京医学社、2014
 
フォローアップ方針 
  1. 尿蛋白(尿アルブミン)とGFRをモニタリングマーカーとして、危険因子に対する介入を長期フォローアップとして行う。
  1. CKDの重症度分類にて緑の部位(非CKD)は12カ月に1度、黄色では6カ月に1度、オレンジでは3カ月に1度、赤のうちG3期では3カ月ごと、G4期では1~3カ月ごと、G5期では1カ月に1度の受診を行う[57](表1<図表>)。
  1. 尿蛋白(尿アルブミン)減少とGFR安定化は、末期腎不全と心血管疾患発症の危険が軽減されていることを示している。この2つの値を常に注意深くみながら、治療を継続する。
難治症例の治療 
  1. 尿蛋白が増加する、GFRが進行性に低下するなどの場合、早めに腎臓専門医に紹介する。
  1. 腎臓専門医は原因精査と可能な治療を行う。
治療の中止 
  1. CKDであれば常に治療を継続する。
  1. それぞれの危険因子の治療目標を達成した場合は、その治療を継続する。
入院適応 
  1. 入院は専門医の判断で決定される。
  1. 腎生検をはじめとした精査をする場合。
  1. 教育入院:CKDでは生活習慣改善が重要である。CKDに関する情報を提供し、CKDがなぜ問題かを患者に理解してもらう。食事療法を体験しながら栄養士の指導を受けるなど。
  1. 治療入院:狭義の腎疾患の場合、それぞれの疾患に応じた治療のため入院が必要になる。例えばIgA腎症では、扁桃摘出やステロイドのパルス療法を施行する際には入院が必要になる。
専門医相談のタイミング 
  1. 治療の初期の段階で、専門医に紹介すべきかどうかを判断する。特に下記のいずれかを認める場合は、腎臓専門医の意見を聞くことが望ましい。また、初期の段階で専門医に紹介しないと判断した場合でも、尿蛋白(尿アルブミン)とGFRを常にモニターしながら、必要に応じて専門医に紹介する。
  1. eGFRの低下した患者を早期に腎臓内科へ紹介することで死亡率が改善するとのエビデンスがある[58][59][60][61][62]
  1. CKD診療ガイドライン2023[1]では、かかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準を設定している。
  1. ただし、実臨床においては、地域の事情に加え、患者の年齢、他の合併症の程度、さらに経時的な腎機能や蛋白尿の変化などを考慮し、適切な対応が求められる。
 
かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準
画像

 

 

 

出典

 
 
  1. 上記以外に、KDIGO2012CKDガイドラインでは 以下を腎専門医へ紹介すべき基準としている。
  1. 48時間内での血清クレアチニン0.3 mg/dL以上の上昇
  1. 1週間以内の血清クレアチニン1.5倍の上昇
  1. 6カ月以内のeGFR50%以上の低下
  1. eGFR30 mL/分/1.73 m2が3カ月間隔で2回確認
  1. 通常のeGFRより25%以上低下した場合
  1. 年間5 mL/分/1.73 m2以上低下する場合
 
  1. 年齢にかかわらず健診受診者のeGFR<45の場合は専門医への紹介を考慮する[63]
  1. ほかに以下の場合も専門医への紹介が望ましい。
  1. 尿沈渣にて糸球体由来の赤血球を認める
  1. 原因不明の腎不全
  1. 透析の適応患者
  1. 腎生検の適応患者( >詳細情報 )
代替療法の導入 
  1. 透析適応基準としては、厚生労働省研究班の古い適応基準はあるが、厳格に適応とすることは実際的ではない。
  1. CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017ではeGFRが15 mL/分/1.73 m2に至る前に専門医に紹介し、CKDステージG5で希望する腎代替療法を担当する透析または腎移植の専門医を中心に腎代替療法の準備を開始する。ただしeGFRの低下速度は個々の症例により異なることから、一律の対応はせず、進行の早い例ではCKDステージG5よりも早期の段階から腎代替療法の準備が必要となることもある。尿毒症に基づく症状が出現した際には、透析導入が必要となる[64][65][66]
腎移植 
腎移植:
  1. 腎臓移植とは、提供された腎臓を移植する治療法で、末期の腎臓病の唯一の根本的治療法である。
  1. 腎臓移植を行うことで、透析治療から解放され、食事の制限も緩和される。また、女性では妊娠・出産も可能になる。一方、生涯にわたる免疫抑制薬の服用が必要となる。
  1. 手術後の生着率は生体腎移植で1年98.7%、5年94.1%、献腎で1年96.4%、5年87.9%である[67]
 
透析導入前の腎移植(先行的腎移植)
  1. 透析導入前に腎移植を行うことは、透析を経てからの腎移植に比べ、移植腎生着率および患者生存率が良好であり[68][69][70][71][72][73]、可能ならば、透析前に腎移植を導入することが望ましい。
  1. 先行的腎移植は我が国の全腎移植の25%を超えて年々その比率が上昇している。
 
腎ドナー:
  1. 生体腎ドナーにおいては、腎提供前に十分な腎機能の評価や腎機能低下要因の除外、あるいは治療を行う。エビデンス上は腎不全の発症のリスクはそれほど増加しないことが知られている[74][75]

文献 

日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.

慢性腎臓病

  

  1. 慢性腎臓病(chronic kidney diseaseCKDは慢性的に腎臓の異常のある疾患のすべてを包含する疾患概念である。
  1. CKDの重症化により末期慢性腎不全への進行とともに、心血管疾患(cardiovascular disease、CVD)発症のリスクも上昇する。
  1. CKDには腎に異常を来す一次性あるいは二次性の原腎疾患があり、診療においては原腎疾患の管理が優先される。
  1. ついで、CKDの進行に関わる共通の治療を実施する。
  1. 近年、加齢とともに経時的に腎機能が低下しCKDと診断されるいわゆる生活習慣病関連のCKDを伴う高齢者の増加がある。
  1. 健診での蛋白尿などの腎障害の存在が疑われる場合、血清クレアチニンをもとに推算される糸球体濾過量(GFRが60未満と推定される場合、その他の異常がなくともCKDの存在を疑い再検査を含めた評価を行う(推奨度1)
  1. GFR低下がある場合、尿検査(蛋白尿、血尿、円柱尿の有無)を実施し、病歴の聴取によりその原因検索を行う
  1. CKDの定義に従い、腎障害の指標(蛋白尿(0.15 g/24時間以上0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上30 mg/gCr以上)、尿沈渣の異常、尿細管障害による電解質異常やその他の異常、病理組織検査による異常、画像検査による異常、腎移植の既往)、腎機能低下(GFR60 mL/分/1.73 m2未満)のいずれかが3を越えて持続する場合CKDと診断する。
  1. CKDと診断された場合には重症度を評価することが強く推奨される(推奨度1、表1<図表>
  1. 日本人におけるGFR推算式:eGFR:推定糸球体濾過量 (日本腎臓学会計算式)
  1. 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、高尿酸血症、過去の検尿異常の既往などCKD発症の危険性の高い場合には数カ月に1回は検尿、血清クレアチニン検査を実施し、CKDの早期発見に努めることを強くめる(推奨度2
  1. 血清クレアチニン値は腎機能以外に、食事および筋肉量による生成、尿細管分泌、腎外排泄により変動する。抗癌剤の投与計画策定時など、腎機能による微細な投与量の決定が必要な場合にはシスタチンCとクレアチニンの両者を使用したGFRの推算式を用いるか、蓄尿によるGFRの測定により正確な腎機能の評価を実施すべきである(推奨度2)
  1. 重症度分類によるGFRステージ、蛋白尿(アルブミン尿ステージの進行は、CVDよる死亡、末期慢性腎不全による腎代替療法開始と相関があるため(表2<図表>ステージ進行抑制目指した介入を実施することが強く勧められる(推奨度1
  1. 推算GFR(eGFRが3月以内に30以上の低下がある場合、蛋白尿と同時尿潜血が陽性となる場合、尿蛋白が0.5 g/日以上もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合eGFRが年間5 mL/分以上低下する場合、腎臓内科へのコンサルトが勧められる(推奨度1
  1. 以下のような場合、腎生検の施行を考慮する必要がある(推奨度2フローチャート1アルゴリズム[1]
  1. 尿蛋白が陽性の患者:1日尿蛋白が0.5 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合
  1. 尿蛋白が上記未満であっても尿潜血を伴う場合
  1. 尿潜血のみ陽性の患者:若年で尿沈渣に変形赤血球が多く存在する場合や、病的円柱を認めるなど糸球体疾患を積極的に疑う場合(これに関しては明確なエビデンスは出されていないが、臨床的な経験からのエキスパートオピニオンである。詳細は、原因疾患の評価: >詳細情報 参照)
  1. CKDのステージ進行抑制には原腎疾患の管理に加え、適切な血圧、血糖、脂質異常症高尿酸血症、体重の管理が重要である(推奨度1)
  1. すべてのCKDステージにおいて腎臓リハビリテーションの実施が勧められる(推奨度1)
  1. CKDのステージ進行抑制には適切な生活運動指導、食事指導が必要で、生活習慣の改善には複数の医療従事者による教育指導が有用である(推奨度1)
  1. 喫煙はCKDの発症および進行に関連する独立した危険因子であり、CVDの発症リスクを増加させることから、CKD患者に禁煙指導を行うことは強く勧められる(推奨度1)
  1. ステージG3~G5のCKD患者では、腎機能障害の進行抑制のため、病態に応じたたんぱく摂取量を考慮する必要がある。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、0.6~1.0 g/kg/日のたんぱく摂取量の調整を勧めている(推奨度2表3<図表>表4<図表>過度のたんぱく質摂取制限はサルコペニア等の誘発の危険があり、慎重に適応を考慮する。また食事療法には、生命予後の改善やQOLの維持を目指して適度な運動の併用が勧められる(推奨度1)
  1. 食塩摂取過剰は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかっている。したがって、CKDステージ進行抑制のため、1日6 g未満(3 g以上)の食塩量が推奨される(推奨度1)
  1. CKDステージG3b以降で、複数回の検査でHb値10 g/dL未満となった患者には、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent 、ESAHIF-PH阻害薬の投与が推奨される(推奨度2)Hb値の目標下限値10 g/dLを目安とし、13 g/dL以上を目指さないこととする。
  1. 貧血のESA投与による正常化は生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、Hb 12 g/dLを超えた場合ESAを減量、あるいは休薬を考慮する(推奨度2)
  1. 貧血を有するCKDにおいて鉄欠乏が認められれば鉄剤を投与することが推奨される(推奨度2)同時に鉄欠乏を来す要因の精査を必要に応じ実施する。
  1. CKDステージG3b以降患者には、アシドーシスを評価し、重曹クエン酸などのアルカリ化薬で重炭酸塩濃度22 mEq/L以上に維持することが推奨される(推奨度2)
  1. CKDステージG4以降で、将来的に腎代替療法を要すると考えられる場合には、腎代替療法の必要性、種類など適切な情報提供を行う(推奨度1)

病態・疫学・診察 

疾患情報 
ポイント:
  1. 慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)の定義:2002年にK/DOQIが定めた定義が使われている[2]
  1. NKF‒K/DOQI により2002年に提唱されたCKDの重症度分類は、2002、2009、2011、2020年の見直しを経て、現在、日本人用に改変された定義が用いられている。2017年時点で世界に6億9750万人(人口の9.1%)のCKD患者がおり[3]、日本では20歳以上人口の14.1%がCKDに該当する。したがって、CKDは、頻度の高い状態で、早期発見と病気の進行の予防を主眼にした管理が必要となる。
  1. CKDの頻度は高齢者ほど高い。2015年のわが国のCKD患者数は1480万人と推計され[4]、2005年からの増加の主因は高齢者人口の増加である。CKDは高齢者で頻度が高く、その多くは腎硬化症(腎内小動脈や細動脈の硬化性病変による腎障害)が主体と思われる[4][5]
  1. なお、GFR 45 mL/分/1.73 m2未満の患者では、全死亡、心血管死亡、末期腎不全への進行および急性腎障害の罹患率が急激に増加することも知られている。末期腎不全、心血管疾患(cardiovascular disease、CVD)の発症の危険は糸球体濾過量(GFR)が低下するほど高くなり、尿蛋白(尿アルブミン)が増加しても高くなる。そのため、CKDの重症度はGFRと尿蛋白(尿アルブミン)によって定義づけられている。
 
CKDの重症度分類
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GFRと尿蛋白(アルブミン)量でCKDの重症度(末期腎不全と心血管疾患のリスク)を色分けして表している。日本では尿中アルブミンは糖尿病腎症のみ保険適用があるため、糖尿病以外では尿蛋白を使うように表に追加している。赤のところは緑のところに比べて、心血管疾患の発症は数倍から10倍程度であるが、高度低下~末期腎不全の発症は、数百倍から千倍にもなる。

 

出典

日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023、p.4、表2、東京医学社、2023
 
問診・診察のポイント 
  1. CKDは血清クレアチニン測定と尿検査で、簡便に診断できる。それゆえ、このような概念が提唱された。診断後の治療・管理を適正に行うためには以下の3ステップに沿って評価を行うことが必須である。
  1. CKDの定義に従い、腎障害の指標[蛋白尿(0.15 g/24時間以上;0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上;30 mg/gCr以上)、尿沈渣の異常、尿細管障害による電解質異常やその他の異常、病理組織検査による異常、画像検査による異常、腎移植の既往)]、腎機能の低下(GFR60 mL/分/1.73 m2満)のいずれかが3カ月を越えて持続する場合CKDと診断する。
  1. 1:CKDの診断と重症度判定(重症度分類にしたがう)
  1. 尿蛋白(アルブミン)量の定量検査(必ず、尿中クレアチニン濃度で補正もしくは1日蓄尿
  1. 血清クレアチニンの測定と推算GFR(eGFR)の計算
  1. 血清クレアチニン値は、食事中の蛋白質の影響を受けるため、再検時には、12時間以上タンパク質の摂取を控えるなどの対応が必要である。
  1. 高齢者においては、体格やサルコペニアの頻度を考慮すべきである。クレアチニンベースのeGFRは、サルコペニアを有する場合、GFRを過大評価してしまう。
  1. 正確なGFRの評価にはクレアチニンとシスタチンCの同時算定によるeGFRによる腎機能の判定が望ましい。
  1. また尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)の算定にあたっては、筋肉量の減少とともに、偽に高くなるので注意が必要である。
  1. 2:原疾患の鑑別(CKDに至った原因を探る。狭義の腎疾患[IgA腎症、膜性腎症、腎硬化症など]または二次性腎疾患[糖尿病性腎症、ループス腎炎など])
  1. 3:合併症と危険因子の有無と評価(①高血圧、②脂質異常、③肥満、④糖尿病、⑤メタボリックシンドローム、⑥高尿酸血症、⑦貧血など)
  1. 上記1~3を常に念頭に置きながら病歴を取り、身体診察を行う。
  1. 血圧(程度、左右差)
  1. 血管雑音(頚部、腹部など)
  1. 貧血の有無
  1. 胸部聴診(心雑音、脈不整、肺雑音の聴取)心拡大の有無
  1. 腹部で腫大した腎臓または膀胱に触れないか
  1. 浮腫の有無

診断方針 

想起 スクリーニング 
  1. 過去の健診異常の確認(記憶だけでなく、実際の健診結果で検尿異常の有無、腎機能の確認をする)。
  1. 高齢者、高血圧患者、肥満のある患者ではCKDの可能性がある。
  1. 糖尿病、全身性エリテマトーデスの患者では腎合併症(CKD)を認める可能性が高い。
  1. 特に高血圧、糖尿病、心血管病、HIV感染症C型肝炎の既往を認める患者、腎疾患の家族歴を認める患者、脂質異常症メタボリックシンドローム高尿酸血症痛風(尿酸塩沈着症)、喫煙など心血管疾患のリスクファクターを認める患者では、健康診断や診察時に腎機能障害の有無を評価することが望ましい。
診断 
ポイント:
  1. 下記のCKDの定義に沿って診断する。
 
CKDの定義:
  1. 下記の1か2が3カ月を越えて持続する場合は、CKDとする。
  1. 1:腎障害の指標 → 蛋白尿(0.15 g/24時間以上;0.15 g/gCr以上)アルブミン尿(30 mg/24時間以上;30 mg/gCr以上)が重要
  1. 尿沈渣の異常
  1. 尿細管障害による電解質異常やその他の異常
  1. 病理組織検査による異常
  1. 画像検査による異常
  1. 腎移植の既往
  1. 2:GFRの低下 糸球体濾過量(GFR)<60 mL/分/1.73 m2
 
CKD診断のための評価
  1. 診断と重症度評価のために、尿検査、血清クレアチニン検査、尿中クレアチニン値と尿蛋白または尿中アルブミンの同時定量を行う。
  1. 血清クレアチニン値と年齢および性別からeGFRを計算する。ただし、サルコペニアの合併時、特に高齢者では血清シスタチンCの値からeGFRを計算したほうがより正確になる。
  1. 腎機能の推定方法(eGFR,推定CCr)
 
  1. 日常診療において、日本人のGFRは以下の推算式で算出する(eGFR)。
    eGFR(mL/分/1.73
     m2)=194×Cr-1.094×Age-0.287(女性は×0.739)
    CKDを疑う患者ではGFRと蛋白尿定量検査から重症度を評価することが強く推奨される(推奨度1)
  1. 413人のイヌリンクリアランス(GFRのゴールドスタンダード)からGFRの推算式を導いた。この推算式では血清クレアチニン、年齢、性別の3つの要因からGFRを計算できるようになっており、350人で検証が行われた。これが現在の日本で標準使用されるGFRの推算式となっている。血清クレアチニンから計算したeGFRをeGFRcreatに表す(O)[6]
 
  1. CKDの早期発見・予防・治療標準化進展阻止に関する調査研究班は、イヌリンクリアランス(GFRのゴールドスタンダード)と血清シスタチンC濃度からGFRの推算式を導いた(O)[7]。シスタチンCを用いて計算したeGFRをeGFRcysと表す。筋肉量の多い人や少ない人では血清クレアチニンを用いたeGFRより正確である(推奨度1)
    男性:eGFRcys(mL/分/1.73
     m2)=104×Cys-C-1.019×0.996年齢(歳)-8
    女性:eGFRcys(mL/分/1.73
     m2)=104×Cys-C-1.019×0.996年齢(歳)×0.929-8
    Cys-C:血清シスタチンC濃度
    mg/L
  1. 血清CysC に基づくGFR 推算式の正確度は血清Cr に基づく推算式と同程度であるが、血清シスタチンC 値は筋肉量や食事、運動の影響を受けにくい特徴がある。そのため、筋肉量が極端に少ない患者(四肢切断やサルコペニアなど)や筋肉量が極端に多い症例(アスリートなど)ではeGFRcreatよりeGFRcysのほうがより実際のGFRに近い値となる。
  1. 抗癌剤や抗菌薬の投与で、腎機能にあわせた投与量の微調整が必要な場合には、eGFRcreatではなく、eGFRcysで計算するか、イヌリンクリアランスによるmGFRの測定が望まれる。
  1. 国際的には2021年に発表された人種を問わないCKD-EPI eGFR cre-Cys式[8]も日本人では過大評価となるために日本人係数0.908が必要である。
  1. 最も正確なGFRの評価は、(eGFRcre+eGFRcys)÷2である。
 
  1. 尿蛋白およびアルブミンの評価:糖尿病を認めない場合は、尿蛋白と尿中クレアチニンを同時に測定して、クレアチニン1 g当たりの尿蛋白量(g/gCr)を計算する。また、糖尿病を認める場合は、尿中アルブミンと尿中クレアチニンを同時に測定してクレアチニン1 g当たりのアルブミン量(mg/gCr)を計算する。(日本では尿中アルブミンは糖尿病のみ保険適用(尿中アルブミン検査は糖尿病患者に対する、早期腎症発見目的での適応であり、糖尿病性腎症確定後には適応ではない)があるため、糖尿病以外では尿蛋白を使って評価する。尿中アルブミンと尿中クレアチニンを同時に測定して、その比を出すことのできる試験紙(オーションスクリーン®:アークレイ株式会社、エームス尿試験紙:シーメンスヘルスケアなど)がある。この試験紙はCKDであれば糖尿病でなくても保険適用される。目視でA1、A2、A3の評価が可能である。)
 
  1. 治療介入による蛋白尿・アルブミン尿の減少の程度は、CVD発症の抑制と相関がある。このため、随時尿における定量試験では、同時に尿中Crを測定して、尿アルブミン/Cr比または尿蛋白/Cr比を求めて評価する。尿アルブミン/Cr比30 mg/gCr以上または尿蛋白/Cr比0.15g/gCr以上であれば適切な治療を開始することが強く勧められる(推奨度1)
 
  1. 診断、重症度評価を行う。GFRによるステージをGで表し、尿蛋白(または尿アルブミン)によるステージをAで表す。GとAのステージの組み合わせでCKDの重症度が定義されている。(重症度評価参照: >詳細情報 )
  1. これらの検査の結果、上記のCKDの定義に沿って診断をする。G3a~G5または、A2~A3のいずれかが3カ月を越えて持続する場合はCKDの診断となる。
  1. なお、試験紙法での目安では、-がA1、±がA2、1+~がA3に相当する。
  1. 試験紙法による蛋白尿では一過性の陽性者が多いので、再検査ならびに定量検査の併用が有用である[4][9]
 
  1. 注)尿蛋白(±)の扱いについて
  1. 従来、尿蛋白(±)は陰性と同様に扱っていたが、尿蛋白(±)の中に尿蛋白ステージA2がかなりの割合で含まれていることが分かった。そのため、尿蛋白(±)では陰性と考えず慎重に対処する必要がある。健診では生活習慣の改善・指導を行い、翌年も尿蛋白(±)であれば医療機関受診が勧められている[10]医療機関では尿蛋白(±)では必ず尿蛋白(アルブミン)と尿クレアチニン定量して、その比をとって評価する。
  1. 参考:希釈尿では試験紙法の±の54.7%がA2、8.1%がA3、逆に濃縮尿では±の37.2%、≧+の8%がA1であるとの報告もある[11]
 
血尿の評価:
  1. 尿潜血反応陽性の場合には尿沈渣にて赤血球の存在を確認する。赤血球を認めれば血尿である。その場合、赤血球形態や円柱(赤血球円柱、上皮円柱、顆粒円柱など)により、血尿が糸球体由来と考えられれば腎臓内科へコンサルトする。尿中の変形赤血球の糸球体疾患診断における感度は52%、特異度は98%とされている[12]。血尿とともに蛋白尿陽性の場合も、糸球体疾患である可能性があるため腎臓内科へコンサルトする。
疾患の除外 
  1. CKDは、上述の定義で定義される病態であり、定義を満たさない場合は除外となる。

治療方針 

原因疾患の評価 
ポイント:
  1. CKDの治療を行う場合、原疾患を明らかにする必要がある。
  1. 原疾患が明らかとなった時点で原疾患の治療を優先し、同時にCKDの共通する進行危険因子に対する治療を行う。
  1. 近年のCKDは高齢者が多く、CKDの原疾患以外に、様々な腎障害進行リスクとなる併発症を有していることが多い。これらの検討も同時に実施する必要がある。
  1. 尿蛋白1 g/gCr以上では狭義の腎疾患(IgA腎症、膜性腎症など)の可能性が高く、腎機能の予後も悪い可能性がある。腎生検の適応を慎重に判断する。
  1. 尿蛋白(アルブミン)量が多いこととGFRが低いことは、腎予後および心血管疾患の発症の共通の危険因子である。
  1. GFRについては、値そのものよりも経時的な変化を重視すべきである。3カ月以内に30%以上低下する場合、年間5以上mL/分/1.73 m2の低下は要注意である。
  1. 原疾患とCKD重症度を合わせて、以下の様に表記すべきである。
  1. CKD G3aA2(IgA腎症)
  1. CKD G4A3(糖尿病性腎症)
  1. CKD G4A1(腎硬化症)
 
原因疾患の評価:
  1. ポイント:
  1. 原因疾患あるいは臨床症候として、蛋白尿陰性~軽度陽性で高齢者、長期の高血圧の病歴があれば腎硬化症、虚血性腎症、蛋白尿>0.5 g/日では糖尿病性腎症の初期、慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)、蛋白尿>3.5 g/日のネフローゼ症候群(微小変化型ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、膜性腎症、IgA腎症、ループス腎炎など)、排尿異常や腰痛を伴う場合には腎後性腎不全(両側尿路結石、後腹膜線維症、尿路悪性腫瘍など)、多発性囊胞腎などである。ほかに血管炎、膠原病に伴う腎疾患(ループス腎炎など)悪性腫瘍の合併時の腎障害などがある。
  1. これらの疾患を尿所見(24時間蓄尿による蛋白尿排泄量)、エコー所見、病歴などにより評価し、必要に応じて下記の代表的な全身疾患に伴う二次性CKDの鑑別のための評価例および代表的な遺伝性CKDの鑑別のための評価例に記載の検査を追加する。
 
CKDの原因疾患の鑑別と治療方針
画像

 

 

 

出典

木村健二郎先生ご提供
 
 
鑑別疾患表:
頻度高
  1. 腎硬化症
  1. 糖尿病性腎症
  1. 慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)
  1. 虚血性腎症(腎硬化症+腎動脈狭窄症)
  1. 腎後性腎不全
  1. ネフローゼ症候群を来す腎疾患(微小変化型ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、ループス腎炎など)
比較的まれ
糸球体疾患:
  1. 巣状糸球体硬化症
  1. 膜性腎症
  1. 膜性増殖性糸球体腎炎
 
全身性疾患に伴う糸球体疾患:
  1. アミロイドーシス
  1. ループス腎炎
  1. 血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(ウェジナー)(GPA)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(EGPA))、くすぶり型の場合には、CKDとなる
  1. 糖尿病性腎臓病(DKD)という病名について
  1. 糖尿病性腎症(diabetic nephropathy、DN)は、もともと糖尿病性糸球体硬化症という組織学的特徴を有する腎疾患に対する病名であった。しかし、臨床現場では糖尿病を合併したCKDで臨床的にほかの腎疾患が強く疑われない場合にDNと診断していたのが現実である。一方、以前から糖尿病性腎症の典型例とされる経過(微量アルブミン尿→顕性アルブミン尿→GFRの低下)と異なり、顕性アルブミン尿を伴わないままGFRが低下する患者の存在が知られていた。最近になって、このような非典型例が世界的に増加していることが示された。これらの非典型例には加齢や高血圧・脂質異常を背景とした動脈硬化(腎硬化症)が関与していると考えられている。このようなことから、欧米ではこれまで使用してきたDNに代わり、非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む概念であるdiabetic kidney disease(DKD)という病名が使用されるようになった。日本においても日本腎臓学会と日本糖尿病学会の合意のもとDKDに「糖尿病性腎臓病」という日本語名を当てて使用することになった(日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」[13])が、2023年時点では糖尿病性腎症と混同しやすいため、DKDの日本語病名は糖尿病関連腎臓病という呼称へと変更が検討されている。
 
 
遺伝性腎症:
  1. 常染色体優性多発性囊胞腎(ADPKD)
  1. アルポート症候群、Fabry病
 
泌尿器科系疾患:
  1. 閉塞性尿路疾患
  1. 前立腺肥大症など
  1. 膀胱尿管逆流症
 
  1. 代表的な全身疾患に伴う二次性CKDの鑑別のための評価例
  1. 糖尿病(網膜症、神経障害の有無、血糖管理不良)、全身性エリテマトーデス(抗核抗体、抗dsDNA抗体、C3、C4など)、多発性骨髄腫(血清M蛋白、尿中Bence-Jones蛋白など)、悪性腫瘍(便潜血、消化管内視鏡検査、腫瘍マーカーなど)の鑑別が大事である。
  1. 代表的な遺伝性CKDの鑑別のための評価例:
  1. 家族歴、多発性囊胞腎(腎超音波検査)、Fabry病(α-ガラクトシダーゼ活性)、Alport症候群など
  1. 薬剤性CKDの薬剤例:
  1. 解熱鎮痛薬の連用、ビタミンD 製剤、カルシウム製剤、抗菌薬、シスプラチン製剤などの薬剤は腎障害を生じる可能性があるため、注意して使用する。
 
腎生検:
  1. ポイント:
  1. 腎生検は主に糸球体疾患の病理組織診断を行うために必須の検査である。
  1. 腎生検はびまん性の腎疾患の形態学的な確定診断に必要な評価方法である。しかし、侵襲的な評価方法であるため、適応と禁忌を理解し、実施は慎重に検討しなければならない。
 
  1. 以下のような場合、腎生検の施行を考慮する必要がある(推奨度2)
    1.
    タンパク尿のみが陽性の患者:1日尿蛋白が1 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比1 g/gCr以上が継続する場合1日尿蛋白が0.5 g以上、もしくは尿蛋白/Cr比0.5 g/gCr以上が継続する場合で、遺伝性腎炎、異常蛋白(Mタンパク)に伴う腎臓病を積極的に疑う場合。起立性蛋白尿や一過性蛋白尿が否定された場合にも腎生検を考慮する。
    2タンパク尿血尿の双方を伴う場合
    3.尿潜血のみ陽性の患者:尿沈渣に変形赤血球が多く存在する場合で腎不全の家族歴や感冒時の肉眼的血尿などIgA腎症、菲薄基底膜病、Alport症候群を積極的に疑う場合
  1. 腎生検ガイドブック2020参照
 
 
  1. 適応:
  1. 超音波検査で腎の萎縮がなく、腎組織をみることにより治療上のメリットが大きく、かつ禁忌事項がないと判断したときには積極的に腎生検を考慮する。
  1. 高齢者で尿蛋白陰性(A1)でGFRのみ低下している場合は腎硬化症が疑われる。この場合は腎生検の適応は少ない。
  1. 糖尿病合併CKDでは、糖尿病性腎症以外の腎臓病を疑う場合には積極的に腎生検を考慮する。
  1. 腎生検のハイリスク因子
  1. 1:出血傾向(ワーファリンや抗血小板薬服用中の場合は薬剤中止後適正な間隔をおいて実施)
  1. 2:単腎、萎縮腎(必要なら開放腎生検や鏡視下腎生検は可能)
  1. 3:息止めのできない患者
  1. 4:非協力的/安静が保てない患者
  1. 合併症
  1. 血腫、動静脈瘻、感染症などが合併症としてみられる。その頻度は対象となる疾患や手技により異なるが、それぞれ0.89%、0.11%、0.18%との報告もある[14]
合併症の評価 
ポイント:
  1. 合併症としては、CKDの成因に関係する合併症とCKDの進行による合併症があり、それぞれの評価が必要である。
 
介入可能なCKDの発症ならびに腎機能悪化進行の危険因子の評価:
  1. CKD発症・進展の危険因子(高度蛋白尿、高血圧、脂質異常、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム高尿酸血症、便秘、貧血など)を明らかにする。
 
CKDの成因に関係する合併症の評価:各原疾患の項を参照のこと
  1. 二次的にCKDを来し得る病態(糖尿病、長期の高血圧症、全身性エリテマトーデス、多発性骨髄腫など)の診断
  1. 腎動脈狭窄の有無(超音波ドプラー法)
  1. 動脈硬化性変化、高血圧性変化、糖尿病性網膜症の評価(眼底検査)
  1. 多発性囊胞腎に合併する脳動脈瘤の診断(MRA)
  1. 皮膚病変などの評価(白血球破砕性血管炎、アレルギー性紫斑、網状皮斑、潰瘍、被角血管腫など)
 
CKDの進行に伴う合併症(保存期慢性腎不全の合併症):
  1. 代謝性アシドーシスの有無:重炭酸塩濃度測定または動脈血ガス、静脈血ガス(HCO3-濃度のみ有用)
  1. 腎性貧血の有無:
  1. Fe、TIBC、フェリチンも測定し、鉄欠乏の有無は必ずチェックする
  1. 慢性腎臓病に伴う⾻ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の状態:
  1. 血清Ca、P、血漿intact-PTH
  1. 心疾患、心不全など:
  1. 胸部X線検査(後→前、側面)、ECG、心臓エコー検査
 
尿毒症症状の出現:
  1. CKDの進行に伴い、本来腎臓から排泄されるべき様々な尿毒症物質蓄積に伴う合併症がある。
  1. 具体的には、血小板機能低下による出血傾向、嘔気、嘔吐などの消化器症状、末梢神経障害によるしびれ。体液量増加に伴ううっ血性心不全、末梢血管透過性亢進に伴う肺水腫(尿毒症肺)、尿毒症性心外膜炎による心タンポナーデ
 
  1. 尿毒症物質について:
  1. 尿毒症は、健常な腎臓から排泄されるべき生体内の不要な化合物が、腎不全により蓄積することにより生じる。この化合物が生物学的機能あるいは生化学機能に悪影響を及ぼす場合、尿毒症毒素とされる。
  1. 尿毒症毒素はその分子量やたんぱく質との結合性から主に3つに分類されている[15]。すなわち、①尿素に代表される、水溶性小分子量物質(分子量<500Da)でグアニジノ化合物であるメチルグアニジン(MG、分子量73Da)やグアニジノコハク酸(GSA、分子量175Da)などは、消化器症状、中枢神経症状、末梢神経障害、貧血、血小板機能低下などを呈する[16]。②β2ミクログロブリンに代表される、中分子量物質(分子量>500Da)で、β2ミクログロブリンは長期透析患者の合併症である透析アミロイドーシスの前駆物質として知られている[17]。③インドキシル硫酸やホモシステインに代表される蛋白結合物質が知られており、インドキシル硫酸(分子量251Da)は腸管内で蛋白の加水分解により生成したトリプトファンから、大腸菌などに含まれるトリプトファナーゼによってインドール代謝される。インドールは腸管から吸収され肝臓で酸化されインドキシルとなり、さらに硫酸抱合によりインドキシル硫酸となり血中に放出される。インドキシル硫酸は約90%がアルブミンと結合しており慢性腎不全で腎クリアランスが低下するため、血中濃度が著明に上昇する。インドキシル硫酸は腎不全を進行させる因子としても知られ、経口吸着剤(AST-120:クレメジン)を投与しインドキシル硫酸の前駆物質であるインドールを腸内で吸着し血清および尿中インドキシル硫酸の濃度を低下させることで、腎機能障害の進行を抑制する可能性がある。
重症度・予後 
ポイント:
  1. 尿蛋白量(g/gCr)または尿アルブミン量(mg/gCr)とeGFRで重症度を判定する(表1<図表>)。
  1. 尿蛋白量の多い例>0.5(g/gCr)、経時的に腎機能の低下(3カ月以内に30%以上、1年で>5 mL/分/1.73 m2以上低下)する例、急性腎障害を併発した場合では腎機能予後の悪い可能性が高い。尿蛋白量と低いeGFRは、心血管疾患の危険因子でもある。
  1. CKDに至った原因の重症度が予後に大きく影響するので、原疾患の病態の正確な把握も重要である。
 
CKDの重症度
  1. G区分
  1. G1:GFR≧90
  1. G2:GFR 60~89
  1. G3a:GFR 45~59
  1. G3b:GFR 30~44
  1. G4:GFR 15~29
  1. G5:GFR<15
  1. GFRの単位はmL/分/1.73 m2 (体表面積1.73 m2で補正した値)
  1. A区分
  1. A1:<0.15(<30)
  1. A2:0.15~0.49(30~299)
  1. A3:≧0.5(≧300)
  1. 蛋白定量g/gCr(またはg/日)、( )内はアルブミン定量 mg/gCr(またはmg/日)
  1. CKDはCGA分類を行う(C:原因疾患、G:GFR、A:尿蛋白量(尿アルブミン量))。例えば、IgA腎症が原因によるCKDで糖尿病合併している場合でGFR 42 mL/分/1.73 m2で尿蛋白が1.2 g/gCrであれば、「IgA腎症によるCKD G3bA3、糖尿病合併あり」と表現する。また腎予後に影響するため原疾患を示し、合併症がある場合にも注意喚起するための配慮が必要である。
 
予後:
  1. GFR 45 mL/分/1.73 m2未満まで進行した場合、尿蛋白が0.5 g/gCr以上の状態では全死亡、心血管死亡、末期腎不全への進行、急性腎障害の発症率が急激に増加する[18]
  1. 糸球体障害においては蛋白尿の程度が予後と関連することが知られている。尿蛋白定量検査を適宜実施し、経時的な増加のあるときには腎臓専門医との相談が必要である。
 
CKDの各ステージにおける心血管死亡・末期腎不全のオッズ比
画像

 

ACRは、尿中アルブミン/尿中クレアチニン比(mg/gCr)

 

治療 
ポイント:
  1. 年間のeGFR低下が5以上、尿蛋白量の増加など経時的な腎機能、重症度の進行、進行のリスク因子のコントロール困難など必要に応じて腎臓専門医と相談しながら、介入可能なCKD危険因子の治療を行う。
  1. 脱水、過降圧などによる急激な血圧低下、薬剤性腎障害など急性腎障害を発症した場合には腎臓専門医と相談のうえ、対応する。
  1. 一次性の糸球体腎炎あるいは二次性腎疾患でも疾患の活動性コントロールに難渋する場合、ネフローゼ症候群を呈する場合などには、その疾患に応じて専門的治療を行う。
  1. IgA腎症
  1. 膜性腎症
  1. 糖尿病性腎臓病(糖尿病性腎症)
  1. ループス腎炎
  1. 尿所見が軽微、経年的な腎機能の変化が軽微な場合などでは、CKDの重症化、腎機能の悪化因子などを明らかにして、介入可能なものに対しては適切な治療を行う。
  1. 適切な生活運動指導、食事指導が必要で、生活習慣の改善には複数の医療従事者による教育指導が有効である[19]
  1. また、必要に応じて適切な時期に専門医への紹介を行う。(詳細:「専門医相談のタイミング: >詳細情報 」)
 
緊急対応:
  1. CKDで以下を認める場合は、急性腎障害(AKI)が合併した可能性を考え、緊急対応を行う。
  1. 48時間以内にSCr値が≧0.3 mg/dL 上昇した場合
  1. SCr値が7日前以内の既知あるいは予想される基礎値より≧1.5倍の増加があった場合
  1. 尿量が6時間にわたって<0.5 mL/kg/時間に減少した場合
 
  1. 腎臓リハビリテーションとは腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ、症状を調整し、生命予後を改善し、心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う、長期にわたる包括的なプログラムである。単に運動療法を行うことをさすのではなく、リハビリテーション本来の意味であるCKD患者の日常生活への復帰を促し、社会生活継続のサポートを様々な専門的医療従事者が協力して実施するものである[20]
  1. すべてのCKD患者に対し、CKDのステージに応じた腎臓リハビリテーションの実施が望ましい。
 
介入可能なCKD危険因子[21][22]
  1. 高血圧
  1. 脂質異常
  1. 肥満
  1. 糖尿病
  1. メタボリックシンドローム
  1. 高尿酸血症
  1. 代謝性アシドーシス
  1. 貧血
  1. 腎毒性物質(抗菌薬、NSAIDs、抗がん剤など)への曝露
  1. 喫煙
  1. 便秘
  1. その他
 
介入不可能なCKD危険因子
  1. 加齢
  1. 低出生体重
  1. 腎容積減少(先天的あるいは手術による)
  1. その他
介入可能なCKD危険因子への介入 
医療連携:
  1. 近年増加している生活習慣病関連の疾患が原因によるCKD患者では、CKDステージの進行を抑制する治療介入は多岐にわたる。
  1. 患者の行動変容実現のためには、患者家族ならびに看護師、保健師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師など様々な職種の医療従事者と共同して治療に当たることが有効である[19][23]
SGLT阻害薬:
  1. SGLT2阻害薬は、糖尿病合併・非合併にかかわらず、アルブミン尿(蛋白尿)の有無にもかからず、CKD患者において腎保護効果を示すため、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的に使用を検討する。
  1. 推算GFR 15 mL/分/1.73 m2未満では新規に開始しないが継続投与して15 mL/分/1.73 m2未満となった場合には、副作用に注意しながら継続する。
  1. 食事摂取量の不足、栄養不良状態、飢餓状態、激しい筋肉運動、過度のアルコール摂取、副腎機能不全、下垂体機能不全、シックデイなどの状況下では低血糖や正常血糖ケトアシドーシスなどの代謝異常を生じる可能性があるため、このような場合にはSGLT2阻害薬の中止を考慮する。
  1. 食事摂取ができない手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。
  1. 利尿薬を使用しているCKD患者や血糖コントロールが極めて不良な糖尿病患者では、脱水や急性腎障害(AKI)を来す可能性があるため注意が必要である。
  1. 高齢CKD患者への投与の際には、サルコペニアやフレイルの発症・増悪に注意する。
  1. SGLT2阻害薬は糖尿病“非”合併CKD患者においても尿路・性器感染症の発症・増悪が懸念されるため、投与後は注意を払う必要がある。
 
  1. 処方例:CDK患者の治療例
 
  1. 開始後早期にeGFR の低下(eGFR initial dip)を認める場合があり、早期(2週間~2カ月程度)にeGFRを再評価する。
  1. 利尿効果があり、処方後に脱水に十分に注意し、適切な水分摂取につとめる。
  1. フォシーガ錠10mg 1錠 分1 朝食後 [慢性腎臓病]
 
高血圧:
  1. 糖尿病合併と蛋白尿陽性CKDでは診察室の血圧130/80 mmHg以下を目指す。ただし、家庭血圧では収縮期・拡張期血圧ともに5 mmHgずつ低い値を目標とする。
  1. 糖尿病合併と軽度以上の蛋白尿(尿蛋白量0.15 g/gCr以上、A2およびA3)を呈するCKD患者では、ACE阻害薬/ARBを第1選択薬にして、降圧とともに尿蛋白減少を目指す。
  1. 降圧目標に達しない場合には、長時間作用型Ca拮抗薬または少量の利尿薬(GFR 30 mL/分/1.73 m2以上ならサイアザイド系利尿薬、それ以下なら長時間作用型のループ利尿薬)を併用する。
 
  1. 処方例:軽度以上の蛋白尿(尿蛋白量0.15 g/gCr以上、A2およびA3)を呈するCKD患者の高血圧治療例
 
  1. 蛋白尿減少効果・腎保護効果の明らかなRA阻害薬で開始し、単剤では血圧コントロール不十分な場合、下記の如く併用していく。
  1. 1) ブロプレス錠 4mg 0.5~2錠 分1 朝食後 次回外来まで [腎実質性高血圧症]
  1. 2) ノルバスク錠5mg 1錠 分1 朝または夕 1カ月後適宜増量、1日10mg 分1~2まで [高血圧症]
  1. 3) ナトリックス錠1mg 1錠 分1 [高血圧症]
 
  1. 糖尿病非合併で尿蛋白陰性(A1)のCKD患者(高齢の腎硬化症が多く含まれる)では、病態に応じて降圧薬を選択する。このカテゴリーの患者の降圧目標は140/90 mmHg未満である。降圧目標に達しなければ、適宜、他の作用機序の降圧薬を併用していく。(本態性高血圧参照)
  1. eGFR<30 mL/分/1.73m2では、ACE阻害薬/ARBによる腎機能悪化や高K血症に充分に注意し、これらの副作用出現時は減量、中止も考慮されるが、CVDイベント予防や生命予後の観点から、一律中止するのでなく、可能な範囲での継続が望まれる。
  1. GFR<30 mL/分/1.73m2の75歳以上の高齢者では脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し、Ca拮抗薬を推奨する[13]
 
  1. 処方例:尿蛋白陰性、非糖尿病例のCKD患者の高血圧治療例
 
  1. 上記に基づき、下記の処方を1剤から始め、併用していく。
  1. 1) アダラートCR錠 20mg 1錠 分1 朝食後 [高血圧症]
  1. 2) アダラートCR錠 20mg 2錠 分2 朝夕食後 [高血圧症]
  1. 3) アダラートCR錠 20mg 2~4錠 分2 [高血圧症]
  1. 4) ダイアート錠 30mg 1~2錠 分1 朝 [腎性浮腫]
  1. 5) オルメテックOD錠 20mg 10~40mg 分1~2 [高血圧症]
 
  1. CKD患者を対象に異なる降圧目標によるCKD進行のリスク/心血管疾患発症のリスクを比較した11のRCT(9,287人)のメタ解析(M)[24]。尿蛋白陰性(尿蛋白0.22 g/gCr)では、厳格降圧が通常降圧より腎の複合エンドポイントを抑制したという証拠はなかった。しかし、尿蛋白陽性(0.22 g/gCr)では厳格降圧は通常降圧より腎の複合エンドポイントを抑制した。厳格降圧と通常降圧で心血管疾患や死亡に有意差はみられなかった(推奨度2)
  1. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」[1]では、糖尿病を合併していないCKDでは、目標血圧140/90 mmHg未満を推奨している。尿蛋白陽性では、目標血圧130/80 mmHg未満を推奨している。糖尿病を合併している場合には、尿蛋白陽性・陰性とも目標血圧130/80 mmHg未満を推奨している。
 
  1. ACE阻害薬やARB は、腎症の進行を抑制するため、正常血圧の患者にも血圧に注意しつつ投与することを検討してもよい(推奨度2)
  1. 複数のRCTで、ACE阻害薬やARBが正常血圧の患者でも腎症の進行を抑制することが示されている。その1つであるMakinoらの2007年の研究では、正常血圧で微量アルブミン尿を認める患者で、テルミサルタンを80 mg内服した群の11%、テルミサルタンを40 mg内服した群の21%、プラセボを内服した群の44%で、平均1.3年間のフォローアップ期間に30%以上の尿中アルブミン増量または顕性アルブミン尿を認めるようになった(R)[25]。正常血圧の微量アルブミン尿患者に対して、ACE阻害薬やARB は腎症の進行を抑制することが示されており、正常血圧の患者にも血圧に注意しつつ投与することが推奨される。
 
  1. 蛋⽩尿抑制を考慮した選択肢としてRAS阻害薬やSGLT2阻害薬の有⽤性が期待される。
 
  1. LDL-cholesterol<120 mg/dL(可能ならば<100 mg/dL)、non-HDL-cholesterol<150 mg/dLを目標に治療を開始し、生活習慣の改善で目標を達成するよう試みるが、目標に達しない場合にはスタチンなど薬物療法を行う[26]。冠動脈疾患の既往がある場合や二次予防の場合はLDL-C<100 mg/dL、non-HDL-C<130 mg/dLを目標にする[27]。CKD患者におけるエビデンスはないが、CKDは明確な冠動脈疾患の危険因子なので、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」に準拠する値を提案する[13]
 
  1. 処方例:CKD患者の脂質異常症の治療例
 
  1. 1) リピトール錠 10mg 1錠 分1 朝食後 次回外来まで [コレステロール血症]
  1. 治療の詳細は、高LDLコレステロール症 の項を参考にしてほしい。
 
肥満:
  1. 食事と身体活動の改善により適正体重を維持する。
  1. 治療の詳細は肥満の項を参考にしてほしい。
 
  1. CKD患者の高尿酸血症の薬物治療には尿酸生成阻害薬と尿酸再吸収阻害薬がある。腎機能障害時の高尿酸血症では、尿酸排泄低下によることが多いが、治療にはアロプリノールに代表される尿酸生成阻害薬がおもに使用されてきた。
  1. 日本人のコホート研究において、血清尿酸値は血清Cr 値の上昇と関連しており、また、特に女性において高尿酸血症(尿酸値6.0 mg/dL以上)は末期腎不全の危険因子であることが報告されている[28]高尿酸血症の治療はCKD患者における腎機能低下を抑制し、蛋白尿を減少させる可能性がある[1]。また、いくつかの臨床研究のメタ解析ではアロプリノールによる尿酸低下療法はCKDの進行を抑制する可能性がしめされた[29][30][31][32]。ドチヌラドは新規に開発された尿酸再吸収阻害薬で尿酸値低下には有用であるが、腎機能への影響などエビデンスにとぼしい。尿酸低下治療のCKDにおける有益性とリスクを評価するためには、充分なパワーをもった無作為化試験が必要とされている。
  1. フェブキソスタットとトピロキソスタットは日本で開発された高尿酸血症治療薬で、アロプリノールのように腎機能低下時に投与量を減量する必要はない。そのため、これらの薬剤を用いたCKDを対象とした臨床試験が行われている。FEATHER研究はCKDステージG3の日本人患者を対象とした大規模な二重盲検RCTであるが、フェブキソスタットによる腎機能低下抑制効果は証明できなかった[33]
 
  1. 処方例:CKD患者の高尿酸血症の治療例
 
  1. 高尿酸血症を認める場合は、以下のいずれかにて治療を開始する。
  1. 1) フェブリク錠 10mg 1日1回10mgより開始し徐々に増量、40mgを維持量とする [高尿酸血症]
  1. 2) トピロリック錠20mg 1回20mg 1日2回より開始し、1回60mg 1日2回の維持量へ徐々に増量する [高尿酸血症]
  1. 3) ユリス錠0.5mg 1回0.5mgから開始し徐々に増量。尿酸排泄促進薬のため、CKDステージG4以降は他の薬剤を考慮 [高尿酸血症]
  1. 治療の詳細は高尿酸血症の項を参考にしてほしい。
 
代謝性アシドーシス
  1. 重炭酸濃度が低い群は高い群に比べて末期慢性腎不全に至る危険性が高く、CKDステージG3以降の患者で重炭酸濃度が21 mEq/Lに低下した場合には重曹の投与を行い、24 mEq/L前後を目標に調節することで腎機能悪化の抑制が期待できる[34][35]
  1. 重曹投与量が増えるに従い、体液貯留、浮腫発症の危険性高く、体重変化など経過観察には注意が必要である。
 
  1. 処方例:代謝性アシドーシスの治療例
 
  1. 炭酸水素ナトリウム 1.5g 分3 食後 適宜増減 [アシドーシス]
 
糖尿病:
  1. 糖尿病を認める場合は、HbA1c7.0%未満を目標に血糖コントロールを行う。ただし、血糖管理は早期腎症から顕性腎症への進行は抑制するが、顕性腎症以降の進行抑制に関するエビデンスは不十分であり、個々の患者の状況に合わせ個別に管理目標を設定する[1]
  1. SGLT2阻害薬は腎機能低下の進展抑制およびCVDイベント発症(心不全)と死亡の発生抑制が、期待できる。
  1. 治療の詳細は2型糖尿病糖尿病性腎症の項を参考にしてほしい。
 
貧血の治療:
  1. Hb 10~13 g/dLを目標とし、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent、ESA)やHIF-PH阻害薬を投与する。治療薬の選択やHb値目標については個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断する[1]
  1. フェリチン<100 ng/mL(μg/L)またはTSAT(Fe/TIBC)<20%では鉄欠乏の可能性があるため、クエン酸第一鉄(フェロミア)、硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)などの鉄剤の投与も行う。
  1. HIF-PH阻害薬としての使用にあたっては日本腎臓学会より公表された、「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に従い使用することが勧められる。
  1. 十分な鉄補充の後 HIF-PH阻害薬を用いて管理する。
  1. 事前に悪性腫瘍、網膜病変の検査を行い、合併がないか、適切な治療がなされているかを確認したうえで開始する。
  1. 虚血性心疾患、脳血管障害や末梢血管病(閉塞性動脈硬化症や深部静脈血栓症など)のある患者については、そのリスクを評価したうえで適応の可否を慎重に判断する。 
  1. 多発性囊胞腎患者にHIF-PH阻害薬を投与する場合は、嚢胞増大を促進する可能性があり、投与中は少なくとも年に1回は画像検査による経過観察を行うこと
  1. ESAとHIF-PH阻害薬の併用は想定されておらず、行うべきではない。
 
  1. 処方例:CKD患者の貧血の治療例
  1. Hb 10~13 g/dLを目標としESAかHIF-PH阻害薬いずれかを投与する。TSAT≦20%またはフェリチン<100 ng/mLを認める場合は、フェロミアまたはフェロ・グラデュメットを併用する。
  1. 1) ネスプ注射液10μgプラシリンジ 30~120μg 皮下注 2~4週に1回 [腎性貧血]
  1. 2) ミルセラ注シリンジ25μg 25~250μg 皮下注 4週に1回 [腎性貧血]
  1. 3) バフセオ錠300mg 1錠 分1 [腎性貧血]
  1. 4) ダーブロック錠2mg 1~2錠 分1 [腎性貧血]
  1. 5) フェロミア錠50mg 1~4錠 分1~2 食後 次回外来まで [鉄欠乏性貧血]
  1. 6) フェロ・グラデュメット錠105mg 1~2錠 分1~2 食間 次回外来まで [鉄欠乏性貧血]
  1. 治療の詳細は腎性貧血の項を参考にしてほしい。
 
  1. 保存期慢性腎臓病で、複数回の検査でHb値10 g/dL未満となった患者には、赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent、ESAやHIF-PH阻害薬の投与が推奨される(推奨度2)
  1. 2型糖尿病性腎症の進行をARBであるロサルタンが抑制したことを示したRENAAL研究(Reduction of Endpoints in Non-insulin-dependent diabetes mellitus with Angiotensin II Antagonist Losartan)のMohanramらのサブ解析がある。これによると、末期腎不全の発症頻度は貧血が進行するほど上昇することが示されている。また一般住民(米国)においてはCKDや心不全は生命予後悪化因子であるが、それに貧血が合併すると、さらに生命予後が悪化するということも示されている(O)[36]。したがって、貧血はCKDのみならず生命予後にとっても悪化要因である。
 
  1. 貧血のESA投与による過度の改善は生命予後の悪化をもたらす可能性があるので、Hb 12 g/dLを超えた場合ESAまたはHIF-PH阻害薬を減量、あるいは休薬を考慮する。また、意図的にHb 13 g/dL以上にしてはならない(推奨度2)
  1. Druekeらは、CKD患者を「目標Hb 12~15 g/dLにする群」と「目標Hb 10.5~11.5 g/dLにする群」の2群に無作為に割り付け、ESAによる加療を行った。その結果、左室重量、腎機能、心血管疾患発症に関して両群に差はみられなかったが、Hb高値群のほうがQOLは高かった(R)[37]。また、Singhらは目標Hbを「13.5 g/dL」と「11.3 g/dL」の2群に割り付けた。その結果、複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞心不全による入院、脳卒中)に達する率は、明らかにHb高値群で高かった(R)[38]。これらの臨床研究から、CKDでは、Hbを正常化することは必ずしも生命予後にとってよい結果をもたらさないことが明らかになった。わが国ではESAの投与による、PREDICT研究[39]として、目標Hb 11-13 g/dLと9-11 g/dLの2群に割り付けた前向き介入研究とRADICANC-CKD研究[40]として、Hb 11 g/dL以上を目指す群とエントリー時のHbを維持する前向き介入研究の結果が報告され、いずれも高いHb群での腎予後、心臓血管イベントに差がなかった。そこで、現在のガイドラインの目標Hb値が設定された。
 
  1. 貧血を有するCKDにおいて鉄欠乏が認められれば鉄剤を投与することが推奨される(推奨度2)
  1. これに関しては明確なエビデンスは出されていないが、臨床的な経験からのエキスパートオピニオンである。
 
浮腫への対応:
  1. チアジド系利尿薬を用いて降圧および浮腫の軽減を期待することができる。
  1. GFR<30 mL/分ではループ利尿薬がより有効である。ただし、降圧のためにはダイアートのような長時間作用型のループ利尿薬が有利である。
  1. 浮腫の改善の効果に関しては通常、チアジド系利尿薬よりもループ利尿薬のほうが優れる。
  1. 軽度の浮腫なら必ずしも治療の必要はない。利尿薬による浮腫の治療では、腎機能の低下に注意する必要がある。
  1. GFRの値を参照に、チアジド系利尿薬としてフルイトランとナトリックスのいずれかを、ループ利尿薬としてラシックス、ダイアートのいずれかを用いる。浮腫に対してはループ利尿薬のほうが効果が強い。
 
  1. 処方例:CKD患者で浮腫を認める場合の治療例
  1. 1) フルイトラン錠 1mg 1錠 分1 朝食後 [高血圧症]
  1. 2) ナトリックス錠 1mg 1錠 分1 [高血圧症]
  1. 3) ラシックス錠 20mg 0.5~4錠 分1~2 朝(昼)食後 次回外来まで [腎性浮腫]
  1. 4) ダイアート錠 30mg 1~2錠 分1 朝 [腎性浮腫]
 
腎毒性物質曝露への対応
  1. NSAIDsや腎障害の原因となる可能性のある薬剤やサプリメントは極力、中止するか減量する。
  1. 禁煙指導を行う。
 
  1. 喫煙は CKD の発症および進行に関連する独立した危険因子であり、CVD の発症リスクを増加させることから、CKD 患者に禁煙指導を行うことは強く勧められる(推奨度1)
  1. CKDと喫煙の関係については次のような観察研究がある。Yamagataらは、日本人12万人の10年間の健診データからCKD発症の予測因子を解析し、喫煙はCKD発症の予測因子であるが、過去の喫煙は有意ではないことを示した(O)[21]。またStengelらは米国人9,000人の12~16年間の追跡データから、1日20本以上の喫煙は透析導入もしくはCKD関連死亡のリスクと関連することを示した(O)[41]。したがって、CKD患者には禁煙指導を行うことが勧められる。
 
尿毒症の治療:
  1. CKD患者への球形吸着炭(クレメジン)の投与によるESKD、死亡の抑制効果は明確ではないが、腎機能低下速度を遅延させる可能性があるため使用を考慮する[1][42]
 
  1. 処方例:CKD患者の尿毒症の治療例
  1. 1) クレメジン細粒 3包 分3 食間 [慢性腎不全]
 
  1. 中程度以上の腎障害を持つCKD患者には、球形吸着炭の投与を考慮してもよい(推奨度2)
  1. 球形吸着炭が腎不全による倦怠感の改善に効果があることを示したRCTが存在する。SchulmanはCr 3.0~6.0 mg/dLでインドキシル硫酸濃度が0.50 mg/dL以上の164人を、さまざまな量の球形吸着炭を投与する群に無作為に割り振った。その結果、投与量が多いほどインドキシル硫酸濃度が減少し、倦怠感などの症状の改善がみられた(R)[43]。このことより、中程度以上の腎障害を持ち倦怠感を訴える患者には、球形吸着炭6 g/日を3回に分けて投与することを考慮してもよい。なお、この研究では1日9 gまでは効果が増えることが認められている。しかし、日本では6 gまでが保険用量である。また血清Cr≦5 mg/dLの患者に投与して、GFRの低下速度が抑制されたとの報告もある(CAP-KD)[44]
 
電解質異常の治療:
  1. カリウム血症(K≧5.5 mEq/L)を認める場合は、K摂取制限を指示するとともにカリメートなどのポリスチレン、ロケルマなどのカリウム吸着薬を用いることがある[45][46][47]
  1. 心電図異常を認めるなど、緊急対応が必要な場合は、人工透析またはグルコースインスリン療法などを考慮する。
  1. 血清K値の管理目標:≧4.0 mEq/L、<5.5 mEq/Lの管理によって、総死亡・心血管疾患のリスクが低下する[1]
  1. 緊急の高カリウム血症に対してRASiを一時的に中止することは有効な治療戦略であるが、有害事象が収束した後は治療を再開することが望まれる。
  1. CKDステージG4期から血液検査に静脈血ガス分析を加え、HCO3-<21 mEq/Lの代謝性アシドーシスを認める場合は、炭酸水素ナトリウム(重曹)を投与する(1日当り1.5gから開始する)。HCO3-濃度は基準値24 mEq/L前後を目標として維持する[1]代謝性アシドーシスの補正で腎保護効果が認められるとの報告がある[34][35]
  1. カルシウム、リン、PTHに異常を認める場合は、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常と診断し、適宜治療を行う。治療方法の詳細は慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常を参照にしてほしい。
 
  1. 処方例:CKD患者の電解質異常の治療例
  1. 緊急対応の必要ない高カリウム血症を認める場合は1)-3)のいずれかを、アシドーシスを認める場合は4)を考慮する。
  1. 1) カリメート散 1~6包 分1~3 [腎不全に伴う高カリウム血症]
  1. 2) ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー20%分包25g「三和」 3~6個 分3 [腎不全に伴う高カリウム血症]
  1. 3) ロケルマ懸濁用散分包5g  初回30g 分3 2日間、以降5g分1で継続 [カリウム血症]
  1. 4) 炭酸水素ナトリウム 1.5~5g 分1~3 [アシドーシス]
 
食事療法:
  1. 適切なエネルギー量の維持、食塩制限(3 g/日以上、6 g/日未満)、たんぱく質調整(GFR 45~59(CKDステージG3a)では0.8~1.0 g/kgBW/日、GFR 45未満(CKDステージG3b以降)では0.6~0.8 g/kgBW/日)。食事内容が適切かどうかをみるには、体重の推移と管理栄養士による食事管理が必要である。可能ならば、24時間蓄尿で1日の食塩摂取量とたんぱく質摂取量を計算する。常に患者にフィードバックし、より適切な摂取量に近づける努力をする。
  1. 高齢者にとってはたんぱく質0.8~1.0 g/kgBW/日の摂取は日本人の食事摂取基準ではたんぱく質の推奨摂取量に相当する。たんぱく質摂取量については個々の患者の身体状況、栄養状態、身体機能、精神状態、生活状態を総合的に勘案し、一律にたんぱく質制限を行うことは勧められない。
  1. 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」(日本腎臓学会)、日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」、日本医療研究開発機構編「CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017」参照
 
  1. CKD患者における適度な飲酒量についての推奨は困難である。エビデンスが充分でないためアルコールの推奨量は定められない。ただし、日本では適度な飲酒はアルコールにして20 g(日本酒にして1合程度)とされている。
 
  1. ステージG3~5のCKD 患者では、腎機能障害の進行抑制、予後改善のため、病態に応じたたんぱく摂取量の調整行う必要がある。「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」および「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、0.6~0.8 g/kg/日たんぱく質制限の目安としているものの、CKD患者の年令、生活習慣、BMIおよびその変動を参考に、たんぱく質制限の優先、緩和を検討すべきである(推奨度2)
  1. CKDにおける低たんぱく質食の効果についてはさまざまな考え方がある。Fouqueらのレビューでは、CKDを対象とした8件のRCT(1,524例、低たんぱく質食群763例、コントロール食群761例)を解析し、低たんぱく質食群はコントロール食群に比して腎疾患死の相対危険度が0.69(95%CI 0.56~0.86、p=0.0007)、NNT2~56例と報告している(CS)[48]。低たんぱく質食群のたんぱく質摂取は0.2~0.7 g/kg/日であった。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、尿蛋白を減少させる目的か腎機能低下を抑制する目的で、G3aで0.8~1.0 g/kg/日、G3b以降0.6~0.8 g/kg/日をたんぱく質制限の目安としている。これは、食事療法を集学的治療の1つと位置づけ、厳しい低たんぱく質食を患者に強いるより、他の治療(生活習慣改善、レニン-アンジオテンシン系抑制薬、脂質異常症治療薬、糖尿病治療薬など)と組み合わせて適正な低たんぱく質食を勧めるべきという判断である。もちろん、経験があり、患者教育を十分に行える施設では厳重な低たんぱく質食も可能である。その場合、蛋白の異化亢進を防ぐため十分なエネルギー摂取をし、必須アミノ酸欠乏を防ぐためサプリメントなどを用いるなどの配慮が必要である。サルコペニア、フレイルの合併がある高齢CKD患者が増加しており、適切な運動、日常活動の維持を考慮し、過度なたんぱく質制限にならないように注意が必須である。
  1. 蛋白摂取量の制限については、腎機能の改善ではなく腸管からのクレアチニン負荷減少の可能性が否定できず、腎機能の評価にシスタチンCによるeGFRで評価を行う。
 
  1. 食塩摂取は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかっている。したがって、CKD進行抑制のため、1日6 g未満(3 g以上)の食塩量が推奨される(推奨度1)
  1. 食塩摂取量と血圧との相関性をみた、いくつかの研究がある。SacksらのRCTでは、ナトリウム摂取量を150 mmol/日、100 mmol/日、50 mmol/日と、30日ごとに減らした(それぞれ食塩9 g/日、6 g/日、3 g/日に相当)。この結果、血圧は食塩摂取量に応じて下がった(R)[49]。また、ButerらはACE阻害薬投与下で尿蛋白量が1 g/日以上のCKD患者において、低食塩食(3 g/日)と高食塩食(15 g/日)を4週間ずつ行い、尿蛋白量の変化をみた。結果は、低食塩食時には尿蛋白は3.1 g/日、平均血圧は89 mmHg、高食塩食時には尿蛋白は4.5 g/日、平均血圧は98 mmHgであった(R)[50]。これらの研究から、食塩摂取は血圧を上昇させ、尿蛋白を増加させることがわかる。尿蛋白は腎疾患の症状であるが、腎疾患そのものを悪化させることがわかっている。したがって、CKDでは食塩摂取量を制限すべきである。
 
飲水:
  1. CKDのG1、G2期では、水分負荷は腎機能保持に有効であるため積極的に飲水を促す[51]。一方、CKD G3期以降では、水分負荷が生命予後、腎予後に有益性が認められないことから、通常よりも意図的に飲水量を増やすことは行うべきではない[52]
 
生活・運動:
  1. 高齢CKD患者ではCKDに関する健康教育単独に比べ、身体活動を増やす指導を追加することにより、シスタチンCによって算出されたeGFRの低下スピードの有意に抑制するなどのエビデンスがある[53]
  1. 日中の座位時間を減らし、中等度の運動負荷を増加させることで、運動能力の向上のみでなく、腎機能悪化スピードの改善も期待できる。
 
ワクチン:
  1. 感染予防の目的で、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種する[13][54][55]
 
  1. 処方例:CKD患者のワクチンの投与例
  1. 1) インフルエンザHAワクチン「生研」 1回 0.5mL 皮下注
  1. 2) ニューモバックスNPシリンジ 1回 0.5mL 皮下注または筋注
 
  1. CKDG4期に至った時点で、腎代替療法(透析療法や腎移植)に関する情報提供を行う。
  1. 透析の導入: >詳細情報 
  1. 腎移植: >詳細情報 
 
CKD ステージによる食事療法基準[56]
  1. ポイント:
  1. 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版では、以下の表の用量を患者の状態、合併症により適宜調整して用いることを推奨している。
 
CKD ステージによる食事療法基準(1)
画像

 

別表:<図表>

 

出典

日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版、p2、東京医学社、2014
 
 
CKD ステージによる食事療法基準(2)
画像

 

 

 

出典

日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版、p2、東京医学社、2014
 
フォローアップ方針 
  1. 尿蛋白(尿アルブミン)とGFRをモニタリングマーカーとして、危険因子に対する介入を長期フォローアップとして行う。
  1. CKDの重症度分類にて緑の部位(非CKD)は12カ月に1度、黄色では6カ月に1度、オレンジでは3カ月に1度、赤のうちG3期では3カ月ごと、G4期では1~3カ月ごと、G5期では1カ月に1度の受診を行う[57](表1<図表>)。
  1. 尿蛋白(尿アルブミン)減少とGFR安定化は、末期腎不全と心血管疾患発症の危険が軽減されていることを示している。この2つの値を常に注意深くみながら、治療を継続する。
難治症例の治療 
  1. 尿蛋白が増加する、GFRが進行性に低下するなどの場合、早めに腎臓専門医に紹介する。
  1. 腎臓専門医は原因精査と可能な治療を行う。
治療の中止 
  1. CKDであれば常に治療を継続する。
  1. それぞれの危険因子の治療目標を達成した場合は、その治療を継続する。
入院適応 
  1. 入院は専門医の判断で決定される。
  1. 腎生検をはじめとした精査をする場合。
  1. 教育入院:CKDでは生活習慣改善が重要である。CKDに関する情報を提供し、CKDがなぜ問題かを患者に理解してもらう。食事療法を体験しながら栄養士の指導を受けるなど。
  1. 治療入院:狭義の腎疾患の場合、それぞれの疾患に応じた治療のため入院が必要になる。例えばIgA腎症では、扁桃摘出やステロイドのパルス療法を施行する際には入院が必要になる。
専門医相談のタイミング 
  1. 治療の初期の段階で、専門医に紹介すべきかどうかを判断する。特に下記のいずれかを認める場合は、腎臓専門医の意見を聞くことが望ましい。また、初期の段階で専門医に紹介しないと判断した場合でも、尿蛋白(尿アルブミン)とGFRを常にモニターしながら、必要に応じて専門医に紹介する。
  1. eGFRの低下した患者を早期に腎臓内科へ紹介することで死亡率が改善するとのエビデンスがある[58][59][60][61][62]
  1. CKD診療ガイドライン2023[1]では、かかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準を設定している。
  1. ただし、実臨床においては、地域の事情に加え、患者の年齢、他の合併症の程度、さらに経時的な腎機能や蛋白尿の変化などを考慮し、適切な対応が求められる。
 
かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準
画像

 

 

 

出典

 
 
  1. 上記以外に、KDIGO2012CKDガイドラインでは 以下を腎専門医へ紹介すべき基準としている。
  1. 48時間内での血清クレアチニン0.3 mg/dL以上の上昇
  1. 1週間以内の血清クレアチニン1.5倍の上昇
  1. 6カ月以内のeGFR50%以上の低下
  1. eGFR30 mL/分/1.73 m2が3カ月間隔で2回確認
  1. 通常のeGFRより25%以上低下した場合
  1. 年間5 mL/分/1.73 m2以上低下する場合
 
  1. 年齢にかかわらず健診受診者のeGFR<45の場合は専門医への紹介を考慮する[63]
  1. ほかに以下の場合も専門医への紹介が望ましい。
  1. 尿沈渣にて糸球体由来の赤血球を認める
  1. 原因不明の腎不全
  1. 透析の適応患者
  1. 腎生検の適応患者( >詳細情報 )
代替療法の導入 
  1. 透析適応基準としては、厚生労働省研究班の古い適応基準はあるが、厳格に適応とすることは実際的ではない。
  1. CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017ではeGFRが15 mL/分/1.73 m2に至る前に専門医に紹介し、CKDステージG5で希望する腎代替療法を担当する透析または腎移植の専門医を中心に腎代替療法の準備を開始する。ただしeGFRの低下速度は個々の症例により異なることから、一律の対応はせず、進行の早い例ではCKDステージG5よりも早期の段階から腎代替療法の準備が必要となることもある。尿毒症に基づく症状が出現した際には、透析導入が必要となる[64][65][66]
腎移植 
腎移植:
  1. 腎臓移植とは、提供された腎臓を移植する治療法で、末期の腎臓病の唯一の根本的治療法である。
  1. 腎臓移植を行うことで、透析治療から解放され、食事の制限も緩和される。また、女性では妊娠・出産も可能になる。一方、生涯にわたる免疫抑制薬の服用が必要となる。
  1. 手術後の生着率は生体腎移植で1年98.7%、5年94.1%、献腎で1年96.4%、5年87.9%である[67]
 
透析導入前の腎移植(先行的腎移植)
  1. 透析導入前に腎移植を行うことは、透析を経てからの腎移植に比べ、移植腎生着率および患者生存率が良好であり[68][69][70][71][72][73]、可能ならば、透析前に腎移植を導入することが望ましい。
  1. 先行的腎移植は我が国の全腎移植の25%を超えて年々その比率が上昇している。
 
腎ドナー:
  1. 生体腎ドナーにおいては、腎提供前に十分な腎機能の評価や腎機能低下要因の除外、あるいは治療を行う。エビデンス上は腎不全の発症のリスクはそれほど増加しないことが知られている[74][75]

文献 

日本腎臓学会編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.

2型糖尿病

INTRODUCTION
Type 2 diabetes (also called type 2 diabetes mellitus) is a disorder that is known for disrupting the way your body uses glucose (sugar); it also causes other problems with the way your body stores and processes other forms of energy, including fat.

All the cells in your body need sugar to work normally. Sugar gets into the cells with the help of a hormone called insulin. If there is not enough insulin or if your body stops responding to insulin, sugar builds up in the blood. This is what happens to people with diabetes. High blood sugar levels can lead to problems if untreated.

There are two different types of diabetes, type 1 and type 2:

●In type 1 diabetes, the problem is that the pancreas (an organ in the abdomen) stops making insulin

●In type 2 diabetes, the body stops responding to normal or even high levels of insulin, and over time, the pancreas does not make enough insulin

In the United States, Canada, and Europe, approximately 90 percent of all people with diabetes have type 2 diabetes. This is a chronic medical condition that requires regular monitoring and treatment throughout your life in order to keep your blood sugar levels as close to normal as possible. This involves lifestyle changes (including your diet and exercise habits), self-care measures, and sometimes medications. Fortunately, these treatments can keep your blood sugar levels under control and minimize your risk of developing complications.

This topic provides a general overview of type 2 diabetes.

THE IMPACT OF DIABETES
Being diagnosed with type 2 diabetes can be a frightening and overwhelming experience, and you likely have questions about why it developed, what it means for your long-term health, and how it will affect your everyday life. Your doctor or nurse can help answer your questions and talk to you about what to expect. They can also direct you to resources for medical, as well as psychological, support. These may include group classes; meetings with a registered dietitian, social worker, or nurse educator; and other educational resources such as books, websites, or magazines. Several of these resources are listed below. (See 'Where to get more information' below.)

For most people, the first few months after being diagnosed are filled with emotional highs and lows. If you have just been diagnosed with diabetes, you and your family should use this time to learn as much as possible so that caring for your diabetes (including testing your blood sugar, going to medical appointments, and taking your medications) becomes a part of your daily routine. (See "Patient education: Glucose monitoring in diabetes (Beyond the Basics)".)

Type 2 diabetes can lead to health complications, some of which can be serious. However, there are things you can do to reduce your risk of developing these problems (see "Patient education: Preventing complications from diabetes (Beyond the Basics)"). Most people with diabetes lead active lives and continue to enjoy many of the foods and activities that they previously enjoyed. Diabetes does not mean an end to "special occasion" foods like birthday cake, and most people with diabetes can (and should) enjoy exercise in almost any form. (See "Patient education: Type 2 diabetes and diet (Beyond the Basics)" and "Patient education: Exercise and medical care for people with type 2 diabetes (Beyond the Basics)".)

TYPE 2 DIABETES CAUSES
Type 2 diabetes is thought to be caused by a combination of genetic and environmental factors.

Genetic causes — Many people with type 2 diabetes have a family member with either type 2 diabetes or other medical problems associated with diabetes, such as high cholesterol and triglyceride levels, high blood pressure, or obesity.

The lifetime risk of developing type 2 diabetes is 5 to 10 times higher in first-degree relatives (ie, sibling or child) of a person with diabetes compared with a person with no family history of diabetes. The likelihood of developing type 2 diabetes is greater in certain ethnic groups, such as people of Hispanic, African, and Asian descent.

Lifestyle factors — Eating an unhealthy diet and not getting enough exercise can lead to weight gain, which increases your risk of developing type 2 diabetes.

Pregnancy — A small number of pregnant women develop diabetes during pregnancy, called "gestational diabetes." Gestational diabetes is similar to type 2 diabetes, but it usually resolves after the woman delivers her baby. Women who develop gestational diabetes during pregnancy are at increased risk for developing type 2 diabetes later in life. (See "Patient education: Gestational diabetes (Beyond the Basics)".)

TYPE 2 DIABETES DIAGNOSIS
The diagnosis of diabetes is based upon your symptoms and the results of blood tests.

Symptoms — Before being diagnosed with type 2 diabetes, most people have no symptoms at all. In those who do have symptoms, the most common include:

●Needing to urinate frequently

●Feeling thirsty

●Blurred vision

Laboratory tests — The main test doctors use to diagnose diabetes is a blood glucose (sugar) test. This can be done in several different ways:

●Random blood sugar test – For a random blood sugar test, you can have blood drawn at any time throughout the day, regardless of when you last ate. A normal random blood sugar level is between 70 and 140 mg/dL (3.9 to 7.8 mmol/L).

●Fasting blood sugar test – A fasting blood sugar test is a blood test done after not eating or drinking for 8 to 12 hours (usually overnight). A normal fasting blood sugar level is less than 100 mg/dL (5.6 mmol/L).

●Hemoglobin A1C test – The "A1C" blood test measures your average blood sugar level over the past two to three months. Normal values for A1C are 4 to 5.6 percent. The A1C test can be done at any time of day (before or after eating).

●Oral glucose tolerance test – Oral glucose tolerance testing (OGTT) is a test that involves drinking a special glucose solution (usually orange or cola flavored). Your blood sugar level is tested before you drink the solution and then again one and two hours after drinking it. Because of its inconvenience, OGTT is not commonly used for testing, except in pregnant women.

Criteria for diagnosis — The following criteria are used to classify your blood sugar levels as normal, increased risk (blood sugar levels that are higher than normal and indicate a risk of future diabetes), or diabetes.

Normal — Fasting blood sugar less than 100 mg/dL (5.6 mmol/L) is considered normal, that is, it does not indicate an increased risk for diabetes.

Increased risk — Some test results put a person in the category of "increased risk," meaning they are at risk of going on to develop diabetes:

●"Impaired fasting glucose" – This is defined as a fasting blood sugar level between 100 and 125 mg/dL (5.6 to 6.9 mmol/L).

●"Impaired glucose tolerance" – This is defined as a blood sugar level of 140 to 199 mg/dL (7.8 to 11 mmol/L) two hours after an OGTT.

●A1C – People with an A1C of 5.7 to 6.4 percent (39 to 46 mmol/mol) are considered at increased risk; the likelihood of developing type 2 diabetes is higher with A1C levels closer to the upper limit of this range.

These categories of increased risk are sometimes called "prediabetes." Approximately one in three American adults can be classified as having prediabetes. If your test results suggest you are at increased risk, your doctor or nurse can talk to you about changes you can make to reduce your risk of developing diabetes. These include improving your diet and exercise habits, losing weight, and quitting smoking (if you smoke). Blood sugar testing is repeated every year.

Although the rate of progression varies, approximately 25 percent of people with either impaired fasting glucose or impaired glucose tolerance will go on to develop type 2 diabetes over three to five years.

Diabetes — Doctors diagnose diabetes if a person has one or more of the following:

●Symptoms of diabetes (see 'Symptoms' above) and a random blood sugar of 200 mg/dL (11.1 mmol/L) or higher

●A fasting blood sugar level of 126 mg/dL (7 mmol/L) or higher

●A blood sugar of 200 mg/dL (11.1 mmol/L) or higher two hours after an OGTT

●An A1C of 6.5 percent (48 mmol/mol) or higher

If your results suggest diabetes, your doctor will repeat one of these tests on another day to confirm the diagnosis.

Type 1 versus type 2 diabetes — Doctors can usually tell whether a person has type 1 or type 2 diabetes, but there are situations in which the diagnosis is difficult to determine. Type 1 diabetes should be suspected in a person without a strong family history of type 2 diabetes who has the following combination of risk factors:

●A family history of certain autoimmune diseases such as hypothyroidism, hyperthyroidism, or celiac sprue

●Symptoms such as frequent urination and weight loss

●High blood sugar levels even after starting type 2 diabetes treatments

In such cases, doctors often run additional blood tests to determine which type the person has.

TYPE 2 DIABETES TREATMENT
The treatment of type 2 diabetes is discussed in detail separately. (See "Patient education: Type 2 diabetes: Treatment (Beyond the Basics)" and "Patient education: Type 2 diabetes: Insulin treatment (Beyond the Basics)" and "Patient education: Hypoglycemia (low blood glucose) in people with diabetes (Beyond the Basics)".)

More information about lifestyle changes for people with diabetes is also available. (See "Patient education: Type 2 diabetes and diet (Beyond the Basics)" and "Patient education: Exercise and medical care for people with type 2 diabetes (Beyond the Basics)".)

TYPE 2 DIABETES COMPLICATIONS
Complications of type 2 diabetes can be related to the disease itself or to the treatments used to manage diabetes. (See "Patient education: Preventing complications from diabetes (Beyond the Basics)".)

PREGNANCY AND DIABETES
Women with type 2 diabetes are usually able to become pregnant and have a healthy baby. A full discussion of diabetes in pregnancy is available separately. (See "Patient education: Care during pregnancy for patients with type 1 or 2 diabetes (Beyond the Basics)".)

 

TYPE 2 DIABETES OVERVIEWType 2 diabetes mellitus is a disorder that is known for disrupting the way your body uses glucose (sugar); it also causes other problems with the way your body stores and processes other forms of energy, including fat.

All the cells in your body need sugar to work normally. Sugar gets into the cells with the help of a hormone called insulin. In type 2 diabetes, the body stops responding to normal or even high levels of insulin, and over time, the pancreas (an organ in the abdomen) does not make enough insulin to keep up with what the body needs. Being overweight, especially having extra fat stored in the liver and abdomen, even if weight is normal, increases the body's demand for insulin. This causes high blood sugar (glucose) levels, which can lead to problems if untreated. (See "Patient education: Type 2 diabetes: Overview (Beyond the Basics)".)

People with type 2 diabetes require regular monitoring and ongoing treatment to maintain normal or near-normal blood sugar levels. Treatment includes lifestyle changes (including dietary changes and exercise to promote weight loss), self-care measures, and sometimes medications, which can minimize the risk of diabetes and cardiovascular (heart-related) complications.

This topic review will discuss the medical treatment of type 2 diabetes.

DIABETES CARE DURING THE COVID-19 PANDEMICCOVID-19 stands for "coronavirus disease 2019." It is an infection caused by a virus called SARS-CoV-2. The virus first appeared in late 2019 and has since spread throughout the world.

People with certain underlying health conditions, including diabetes, are at increased risk of severe illness if they get COVID-19. COVID-19 infection can also lead to severe complications of diabetes, including diabetic ketoacidosis (DKA).

Getting vaccinated lowers the risk of severe illness; experts recommend COVID-19 vaccination for anyone with cancer or a history

TYPE 2 DIABETES TREATMENT GOALSThe main goals of treatment in type 2 diabetes are to keep your blood sugar levels within your goal range and treat other medical conditions that go along with diabetes (like high blood pressure); it is also very important to stop smoking if you smoke. These measures will reduce your risk of complications.

Blood sugar control — It is important to keep your blood sugar levels at goal levels. This can help prevent long-term complications that can result from poorly controlled blood sugar (including problems affecting the eyes, kidney, nervous system, and cardiovascular system).

Home blood sugar testing — Your doctor may instruct you to check your blood sugar yourself at home, especially if you take certain oral diabetes medicines or insulin. Home blood sugar testing is not usually necessary for people who manage their diabetes through diet only or with diabetes medications that do not cause low blood sugar.

random blood sugar test is based on blood drawn at any time of day, regardless of when you last ate. A fasting blood sugar test is a blood test done after not eating or drinking for 8 to 12 hours (usually overnight). A normal fasting blood sugar is more than 70 mg/dL (3.9 mmol/L) but less than 100 mg/dL (5.6 mmol/L), although people with diabetes may have a different goal. Your doctor or nurse can help you set a blood sugar goal and show you exactly how to check your level. (See "Patient education: Glucose monitoring in diabetes (Beyond the Basics)".)

A1C testing — Blood sugar control can also be estimated with a blood test called glycated hemoglobin, or "A1C." The A1C blood test measures your average blood sugar level over the past two to three months. The goal A1C for most young people with type 2 diabetes is 7 percent (53 mmol/mol) or less, which corresponds to an average blood sugar of approximately 150 mg/dL (8.3 mmol/L) (). Lowering your A1C level reduces your risk for kidney, eye, and nerve problems. For some people, a different A1C goal may be more appropriate. Your health care provider can help determine your A1C goal.

Reducing the risk of cardiovascular complications — The most common, serious, long-term complication of type 2 diabetes is cardiovascular disease, which can lead to problems like heart attack, stroke, and even death. On average, people with type 2 diabetes have twice the risk of cardiovascular disease as people without diabetes.

However, you can substantially lower your risk of cardiovascular disease by:

Quitting smoking, if you smoke

Managing high blood pressure and high cholesterol with diet, exercise, and medicines

Taking a low-dose aspirin every day, if you have a history of heart attack or stroke or if your health care provider recommends this

 

Some studies have shown that lowering A1C levels with certain medications may also reduce your risk for cardiovascular disease. (See 'Type 2 diabetes medicines' below.)

A detailed discussion of ways to prevent complications is available separately. (See "Patient education: Preventing complications from diabetes (Beyond the Basics)".)

DIET AND EXERCISE IN TYPE 2 DIABETESDiet and exercise are the foundation of diabetes management.

Changes in diet can improve many aspects of type 2 diabetes, including helping to control your weight, blood pressure, and your body's ability to produce and respond to insulin. The single most important thing most people can do to improve diabetes management and weight is to avoid all sugary beverages, such as soft drinks or juices, or if this is not possible, to significantly limit consumption. Limiting overall food portion size is also very important. Detailed information about type 2 diabetes and diet is available separately. (See "Patient education: Type 2 diabetes and diet (Beyond the Basics)".)

Regular exercise can also help control type 2 diabetes, even if you do not lose weight. Exercise is related to blood sugar control because it improves your body's response to insulin. (See "Patient education: Exercise and medical care for people with type 2 diabetes (Beyond the Basics)".)

TYPE 2 DIABETES MEDICINESA number of medications are available to treat type 2 diabetes.

Metformin — Most people who are newly diagnosed with type 2 diabetes will immediately begin a medicine called metformin (sample brand names: Glucophage, Glumetza, Riomet, Fortamet). Metformin improves how your body responds to insulin to reduce high blood sugar levels.

Metformin is a pill that is usually started with a once-daily dose with dinner (or your last meal of the day); a second daily dose (with breakfast) is added one to two weeks later. The dose may be increased every one to two weeks thereafter.

Side effects — Common side effects of metformin include nausea, diarrhea, and gas. These are usually not severe, especially if you take metformin along with food. The side effects usually improve after a few weeks.

People with severe kidney, liver, and heart disease and those who drink alcohol excessively should not take metformin. There are certain situations in which you should stop taking metformin, including if you develop acute or unstable heart failure, get a serious infection causing low blood pressure, become dehydrated, or have severely decreased kidney function. You will also need to stop your metformin before having surgery of any kind.

Adding a second medicine — Your doctor or nurse might recommend a second medication in addition to metformin. This may happen within the first two to three months if your blood sugar and A1C levels are still higher than your goal; otherwise, many people need to add a second glucose-lowering medication later (after several years of having diabetes). There are many available classes of medication that can be used with metformin or in combination with each other if metformin is contraindicated or not tolerated. (See "Patient education: Type 2 diabetes: Insulin treatment (Beyond the Basics)".)

If your blood sugar levels are still high after two to three months but your A1C is close to the goal (generally between 7 and 8.5 percent), a second oral medicine might be added. If your A1C is higher than 9 percent, however, your doctor might recommend insulin (usually as a single daily injection) or a glucagon-like peptide-1 (GLP-1) or dual receptor agonist (a daily or weekly injection). The most appropriate second medicine depends upon several different factors, including your weight, risk of low blood sugar, other medical problems, and preferences, in addition to the efficacy, side effects, and cost of the medication.

Sulfonylureas — Sulfonylureas have been used to treat type 2 diabetes for many years. They work by increasing the amount of insulin your body makes and can lower blood sugar levels by approximately 20 percent. However, over time they gradually stop working. They are reasonable second agents because they are inexpensive, effective, universally available, and have a long-term track record. Most patients can take sulfonylureas even if they have an allergy to "sulfa" drugs. You should be very cautious taking a sulfonylurea if you have kidney failure.

A number of short-acting sulfonylureas are available (sample brand names: Glucotrol, Amaryl), and the choice between them depends mainly upon cost and availability.

If you take a sulfonylurea, you can develop low blood sugar, known as hypoglycemia. Low blood sugar symptoms can include:

Sweating

Shaking

Feeling hungry

Feeling anxious

Feeling confused

 

Low blood sugar must be treated quickly by eating 10 to 15 grams of fast-acting carbohydrate (eg, fruit juice, hard candy, glucose tablets). It is possible to pass out if you do not treat low blood sugar quickly enough. To reduce the risk of low blood sugar when you are not eating, if you know you are going to miss a meal, you can skip the sulfonylurea tablet you would usually take before eating. A full discussion of low blood sugar is available separately. (See "Patient education: Hypoglycemia (low blood glucose) in people with diabetes (Beyond the Basics)".)

DPP-4 inhibitors — This class of medicines, dipeptidyl peptidase-4 (DPP-4) inhibitors, includes sitagliptin (brand name: Januvia), saxagliptin (brand name: Onglyza), linagliptin (brand name: Tradjenta), alogliptin (brand name: Nesina), and vildagliptin (brand name: Galvus). Vildagliptin is available in some countries but not in the United States. These medicines lower blood sugar levels by increasing insulin release from the pancreas in response to a meal. They can be given alone in people who cannot tolerate the first-line medicine (metformin) or other medicines, or they can be given together with other oral medicines if blood sugar levels are still higher than the goal. These medicines do not cause hypoglycemia or changes in body weight. There have been rare reports of joint pain, pancreatitis, and severe skin reactions.

SGLT2 inhibitors — The sodium-glucose co-transporter 2 (SGLT2) inhibitors, canagliflozin (brand name: Invokana), empagliflozin (brand name: Jardiance), dapagliflozin (brand name: Farxiga), and ertugliflozin (brand name: Steglatro), lower blood sugar by increasing the excretion of sugar in the urine. They are variably effective, but on average, they are similar in potency to the DPP-4 inhibitors (see 'DPP-4 inhibitors' above). SGLT2 inhibitors may be a good choice for people with heart failure or chronic kidney disease because they have been shown to have some cardiovascular, renal, and mortality benefits.

SGLT2 inhibitors do not cause low blood sugar. They promote modest weight loss and blood pressure reduction. Side effects include genital yeast infections in men and women, urinary tract infections, and dehydration. Some medicines in this class have been associated with an increased risk of bone fracture or amputation. An uncommon but deadly infection of the tissue in the perineum (the area between the genitals and the anus) has also been reported in men and women.

SGLT2 inhibitors can increase the risk of diabetic ketoacidosis (DKA); this is a serious problem that can happen when acids called "ketones" build up in the blood. DKA can happen even when blood sugar is only mildly elevated. Blood ketones should be checked if symptoms of nausea and/or vomiting develop while taking SGLT2 inhibitors.

GLP-1 receptor agonists — The glucagon-like peptide-1 (GLP-1) receptor agonists are medications given by injection that increase insulin release in response to a meal and slow digestion. They include exenatide, dosed twice daily (brand name: Byetta); exenatide extended release, dosed weekly (brand name: Bydureon); liraglutide, dosed daily (brand name: Victoza); dulaglutide, dosed weekly (brand name: Trulicity); lixisenatide, dosed daily (brand name: Adlyxin); and semaglutide, dosed weekly as an injection (brand name: Ozempic) or daily as a tablet (brand name: Rybelsus). These medications are useful for people whose blood sugar is not controlled on the highest dose of one or two oral medicines. They may be especially helpful for overweight people who are gaining weight or struggling to lose weight on other diabetes medicines. Liraglutide, dulaglutide, or semaglutide injections are recommended for people who have, or are at high risk for, cardiovascular disease, as they have been shown to have cardiovascular benefits in these groups.

GLP-1 receptor agonists do not usually cause low blood sugar when used without other medications that cause low blood sugar. They promote loss of appetite and a sense of feeling full after eating a smaller amount of food, which helps with weight loss, but can also cause bothersome side effects, including nausea, vomiting, and diarrhea. Gastrointestinal side effects usually improve with time. Pancreatitis (inflammation of the pancreas) has been reported rarely in people taking GLP-1 receptor agonists, but it is not known if the medications caused the pancreatitis. They have also been associated with gall bladder disease. You should stop taking these medications if you develop severe abdominal pain. Exenatide and lixisenatide should not be used in people with abnormal kidney function, and liraglutide and dulaglutide should be used with caution in this situation. These drugs are generally expensive.

Meglitinides — Meglitinides include repaglinide (brand name: Prandin) and nateglinide (brand name: Starlix). They work to lower blood sugar levels, similar to the sulfonylureas, but they act more quickly than sulfonylureas and should be taken right before a meal; they might also be recommended in people who are allergic to sulfonylureas. They are taken in pill form. Meglitinides are not generally used as a first-line treatment, because they are more expensive than sulfonylureas. Repaglinide can be used in patients with kidney failure.

Thiazolidinediones — This class of medicines includes pioglitazone (brand name: Actos) and rosiglitazone (brand name: Avandia), which work to lower blood sugar levels by increasing the body's sensitivity to insulin. They are taken in pill form and usually in combination with other medicines such as metformin, a sulfonylurea, or insulin.

Common side effects of thiazolidinediones include:

Weight gain.

 

Swelling of the feet and ankles, which sometimes can be a sign of new or worsening heart failure. The risk of heart failure is small but serious. An early sign of heart failure is swelling of the feet and ankles. People who take thiazolidinediones should monitor for swelling.

 

A small but serious increased risk of developing fluid retention at the back of the eyes (macular edema).

 

A possible risk of developing certain types of cancer (like bladder cancer).

 

An increased risk of bone fractures.

 

Alpha-glucosidase inhibitors — These medicines, which include acarbose (brand name: Precose) and miglitol (brand name: Glyset), work by interfering with the absorption of carbohydrates in the intestine. This helps to lower blood sugar levels but not as well as metformin or the sulfonylureas. They can be combined with other medicines if the first medicine does not lower blood sugar levels enough.

The main side effects of alpha-glucosidase inhibitors are gas (flatulence), diarrhea, and abdominal pain; starting with a low dose may minimize these side effects. The medicine is usually taken three times per day with the first bite of each meal.

Insulin — In the past, insulin treatment was reserved for patients with type 2 diabetes whose blood sugar was not controlled with oral medicines and lifestyle changes (ie, diet and exercise). However, there is increasing evidence that insulin treatment at earlier stages may improve overall diabetes management over time. Side effects include low blood sugar, if you take more insulin than your body needs, and weight gain. Adjusting the dose of insulin to the body's needs can minimize the risk of these side effects. It may be necessary to readjust your dose frequently.

In some situations, insulin injections (shots) can be used as a first-line treatment for type 2 diabetes. In other cases, insulin can be added to or substituted for oral medicines. If you take insulin, you will need to get comfortable giving yourself the injections or have a family member or housemate learn how to do it for you. More detailed information about insulin treatment is available separately. (See "Patient education: Type 2 diabetes: Insulin treatment (Beyond the Basics)".)

LIVING WITH TYPE 2 DIABETESLiving with type 2 diabetes can be stressful. It is a lot of responsibility to have to monitor your blood sugar (if you need to do this), watch your diet, exercise regularly, keep all your appointments, and take your medications every day. It can also be scary to think about the potential complications of diabetes. It can help to involve your family and friends and make sure you have a solid support system in place to provide encouragement, reminders, and help as you need it.

It is not uncommon for stress to lead to burnout or even depression, and this can make taking care of yourself more difficult. Having an open and honest discussion with your doctor, nurse, or other health care provider can help you to understand your diagnosis, treatment plan, and what to do if you are overwhelmed. Some people also benefit from talking with a counselor or social worker to help them cope with their responsibilities and worries.

睡眠時無呼吸症候群

INTRODUCTION

Normally during sleep, air moves in and out through the nose, throat, and lungs at a regular rhythm. In a person with sleep apnea, air movement is periodically reduced or stopped. There are two types of sleep apnea, obstructive sleep apnea and central (non-obstructive) sleep apnea; some forms of apnea involve both types (a “mixed” apnea). For both types of sleep apnea, there is a reduction in breathing. In obstructive sleep apnea, breathing becomes abnormal because of narrowing or closure of the throat. In central sleep apnea, breathing is abnormal because of a change in the breathing control and rhythm, but the throat remains open.

 

Sleep apnea is a serious condition that can affect sleep satisfaction and quality, alertness and efficiency while awake, and the ability to safely drive a motor vehicle; it can also impact long term health. Approximately 25 percent of adults are at risk for sleep apnea of some degree [1]. Males are more commonly affected than females, but after menopause it is more equal. Other risk factors include middle and older age, being overweight or obese, and having a small mouth and throat.

 

This topic review focuses on the most common type of sleep apnea in adults, obstructive sleep apnea (OSA).

 

HOW SLEEP APNEA OCCURS

The throat is surrounded by muscles that control the airway for speaking, swallowing, and breathing. These muscles hang from the skull and jaw and surround a flexible tube (the main airway that brings air to the lungs). During sleep, muscles are less active, which can cause the throat to narrow (figure 1). In most people, this narrowing does not affect breathing. In others, it can cause snoring, sometimes with reduced or completely blocked airflow (figure 2). A completely blocked airway without airflow is called an obstructive apnea. Partial obstruction with diminished airflow is called a hypopnea. A person may have both sleep apnea and hypopnea.

 

Insufficient breathing due to apnea or hypopnea causes oxygen levels to fall and carbon dioxide levels to rise. Because the airway is blocked, breathing faster or harder does not help to improve oxygen levels until the airway is reopened. Typically, the obstruction requires the person to briefly awaken to activate upper airway muscles. Once the airway is opened, the person then takes several deep breaths to catch up on breathing. As the person awakens, they may move briefly, snort, or loudly snore. Less frequently, a person may awaken completely with a sensation of gasping, smothering, or choking.

 

If the person falls back to sleep quickly, they will not remember the event. Many people with sleep apnea are unaware of their abnormal breathing in sleep, and all patients underestimate how often their sleep is interrupted. Awakening from sleep causes sleep to be unrefreshing and causes a sense of fatigue and wake time sleepiness.

 

Anatomic causes of obstructive sleep apnea — Some patients have OSA because of a small upper airway. As the bones of the face and skull develop, some people develop a small lower face, a small mouth, and a tongue that seems too large for the mouth. These features are largely genetically determined, which explains why OSA tends to cluster in some families. Obesity also increases the risk of airway closure. Tonsil enlargement can be an important cause, especially in children. While these factors increase the risk of sleep apnea, they are not likely to cause noticeable symptoms or problems while the person is awake.

 

SLEEP APNEA SYMPTOMS

The major symptoms of OSA are loud snoring, fatigue, and feeling sleepy during the day (or whenever the person is normally awake). However, some people have no symptoms. For example, if the person does not have a bed partner, they may not be aware of the snoring. Fatigue and sleepiness have many causes and are often attributed to overwork and increasing age. As a result, it may take time for a person to recognize that they have a problem. A bed partner or spouse often prompts the person to seek medical attention (eg, for pauses, snorts, and snoring during sleep).

 

Other symptoms may include one or more of the following:

 

  • Restless sleep

 

  • Awakening with choking, gasping, or smothering

 

  • Morning headaches, dry mouth, or sore throat

 

  • Waking frequently to urinate

 

  • Awakening unrested, groggy

 

  • Low energy, difficulty concentrating, memory impairment

 

Risk factors — Certain factors increase the risk of sleep apnea.

 

  • Increasing age – OSA occurs at all ages, but it is more common in middle and older age adults.

 

  • Male sex and hormones – OSA is twice as common in males as females, especially in middle aged males and in those on replacement hormones.

 

  • Obesity – The more obese a person is, the more likely they are to have OSA.

 

  • Sedation from medication or alcohol – These reduce breathing and prevent awakening during sleep, and can lengthen periods of apnea (no breathing), with potentially dangerous consequences.

 

  • Abnormality of the airway that narrows it (eg, large tonsils).

 

SLEEP APNEA HEALTH CONSEQUENCES

Complications of sleep apnea can include reduced alertness, difficulty concentrating, and sleepiness. The consequence is an increased risk of crashes, accidents, and errors. Studies have shown that people with severe OSA are more than twice as likely to be involved in a motor vehicle accident as people without sleep apnea. People with OSA are encouraged to recognize this risk and discuss options for driving, working, and performing other high-risk tasks with a healthcare provider.

 

In addition, people with untreated OSA may have an increased risk or worsened control of cardiovascular problems such as high blood pressure, heart attack, abnormal heart rhythms, or stroke [2]. This risk may be due to changes in the heart rate and blood pressure that occur during sleep.

 

SLEEP APNEA DIAGNOSIS

The diagnosis of OSA and a plan to manage it is best made by a knowledgeable sleep medicine specialist who has an understanding of the individual's health issues. The diagnosis is usually based upon the person's medical history, physical examination, and testing, including:

 

  • A complaint of snoring and ineffective sleep

 

  • Neck size (greater than 17 inches in men or 16 inches in women) is associated with an increased risk of sleep apnea

 

  • A small upper airway: difficulty seeing the throat because of a tongue that is large for the mouth

 

  • High blood pressure, especially if it is resistant to treatment

 

  • If a bed partner has observed the patient during episodes of stopped breathing (apnea), choking, or gasping during sleep, there is a strong possibility of sleep apnea

 

An overnight sleep study is called a polysomnogram. The polysomnogram measures the breathing effort and airflow, blood oxygen level, heart rate and rhythm, duration of the various stages of sleep, body position, and movement of the arms/legs.

 

At-home devices are available that monitor breathing, oxygen saturation, position, and heart rate, but not sleep itself. Home monitoring is a reasonable alternative to conventional testing in a sleep laboratory if the clinician strongly suspects moderate or severe sleep apnea and the patient does not have other illnesses or sleep disorders that may interfere with interpretation of the results.

 

SLEEP APNEA TREATMENT

The goal of treatment is to maintain an open airway during sleep. Effective treatment will eliminate the symptoms of sleep disturbance; long-term health consequences are also reduced. Most treatments require nightly use. The challenge for the clinician and the patient is to select an effective therapy that is appropriate for the patient's problem and that is acceptable for long term use.

 

Continuous positive airway pressure (CPAP) — The most effective predictable, and commonly used treatment for sleep apnea uses air pressure from a mechanical device to keep the upper airway open during sleep. A CPAP device (figure 3) uses an air-tight attachment to the nose, typically a mask, connected to a tube and a blower which generates the pressure [3]. Devices should fit comfortably into the nasal opening, or over the nose or nose and mouth. CPAP should be used any time the person sleeps (day or night).

 

The CPAP device can be started in the sleep lab, where a technician can adjust the pressure and select the best equipment to keep the airway open. Alternatively, an "auto" device with a self-adjusting pressure feature, provided with proper education and training, can get treatment started without another sleep test. CPAP devices are now relatively quiet, and having a comfortable mask fit is key, but most people will accept the treatment if it improves their symptoms. However, difficulty with mask comfort and/or nasal congestion result in a reduction of regular use to only 50 percent of people after two years.

 

Continued follow-up with a healthcare provider helps promote effective treatment as technology improves. Information from the CPAP machine is often used by you, physicians, therapists, and insurers to track the success of treatment. CPAP can be delivered with different features to improve comfort and solve problems that may come up during treatment. Changes in treatment may be needed if symptoms do not improve or if the person's condition changes, such as a gain or loss of weight.

 

Behavior and lifestyle changes — Most people with OSA can benefit from certain behavior changes.

 

Changing sleep position — Adjusting sleep position (to stay off the back) may help improve sleep quality in people who have OSA when sleeping on the back. However, this is difficult to maintain throughout the night and is rarely an adequate solution.

 

Weight loss — Weight loss is very helpful for people who are obese or overweight. Weight loss through dietary changes, exercise, and/or surgical treatment is equally effective. However, it can be difficult to maintain weight loss; the five-year success of non-surgical weight loss is only 5 percent, meaning that 95 percent of people regain lost weight. (See "Patient education: Losing weight (Beyond the Basics)".)

 

Avoiding alcohol and other sedatives — Alcohol can worsen sleepiness, increasing the risk of accidents or injury. People with OSA are often counseled to drink little to no alcohol, even during the daytime. Similarly, people who take anti-anxiety medications or sedatives to sleep should speak with their healthcare provider about the impact of these medications on sleep apnea.

 

If you have OSA, you will need to notify other healthcare providers, including surgeons, about your condition and the potential risks of being sedated. People with OSA who are given perioperative anesthesia and/or pain medications require special management and close monitoring to reduce the risk of a blocked airway.

 

Other treatments — While behavioral changes and CPAP are typically recommended as initial therapy for people with OSA, other treatments may be used in some situations.

 

Appliances — An oral appliance (or "mandibular advancement device") can reposition the jaw, bringing the tongue and soft palate forward to relieve obstruction in some people [4].

 

Oral appliances work very well to reduce snoring, although the effect on OSA is sometimes more limited [4]. As a result, they are best used for mild cases of OSA when relief of snoring is the main goal. While oral appliances are not as effective as CPAP for OSA, they may be an alternative for people who cannot tolerate (or choose not to have) CPAP. Side effects of oral appliances are generally minor but may include changes to the bite with prolonged use.

 

Other devices that aim to reduce snoring and improve sleep are also available over the counter or by prescription. These include strips that are placed over the nose or nostrils with the goal of helping keep the airway open. While some people find these devices helpful, there is limited evidence for their efficacy in treating sleep apnea. If you are interested in trying one of these devices, be sure to read all labels and instructions carefully, and discuss it your health care provider first.

 

Upper airway surgery — Surgery is an alternative for patients who cannot tolerate or do not improve with nonsurgical treatments. Surgery can also be used in combination with other nonsurgical treatments.

 

The most common surgical approach uses nerve stimulation to prevent the upper airway from closing during sleep. This is known as "hypoglossal nerve stimulation." It is being increasingly used in people with mild to moderate sleep apnea in whom CPAP has been unsuccessful or is not tolerated.

 

Surgical procedures reshape structures in the upper airways or surgically reposition bone or soft tissue. Uvulopalatopharyngoplasty (UPPP) removes the uvula and excessive tissue in the throat, including the tonsils, if present. Other procedures, such as maxillomandibular advancement (MMA), address both the upper and lower pharyngeal airway more globally.

 

UPPP alone has limited success rates (less than 50 percent) and people can relapse (when OSA symptoms return after surgery) [5]. As a result, this surgery is only recommended in a minority of people and should be considered with caution. MMA may have a higher success rate, particularly in people with abnormal jaw (maxilla and mandible) anatomy, but it is a complicated procedure.

 

Tracheostomy creates a permanent opening in the neck. It is reserved for people with severe disease in whom less drastic measures have failed or are inappropriate. Although successful in eliminating obstructive sleep apnea, tracheostomy requires significant lifestyle changes and carries some serious risks (eg, infection, bleeding, blockage).

 

All surgical treatments require discussions about the goals of treatment, the expected outcomes, and potential complications.

胸部動脈瘤について

胸部動脈瘤について

 

概要・推奨  

最大径55 mm未満(症状なし、紡錘状瘤、半年で5 mm以上の瘤径拡大なし、マルファン症候群を除く)の胸部・胸腹部大動脈瘤に対し、内科治療が推奨される。

内科治療に関しては、血圧値130/80 mmHg未満を目標として血圧管理を行う(推奨度1)。

最大径55 mm未満でも急速拡大(最大径5 mm/半年以上)を認める場合、侵襲的治療を考慮する(推奨度2)。

最大径55 mm以上の大動脈基部・上行大動脈の非破裂性大動脈瘤に対して、外科手術が推奨される(推奨度1)。

最大径55 mm以上の非破裂性弓部大動脈瘤に対して、外科手術が推奨される(推奨度2)。

最大径55 mm以上の非破裂性弓部大動脈瘤で、外科手術が高リスクの症例には、TEVARもしくはハイブリッド手術が推奨される(推奨度2)。

最大径60 mm以上の非破裂性下行大動脈瘤に対して、TEVARが推奨される(推奨度1)。

最大径60 mm以上でTEVAR適応外の非破裂性下行大動脈瘤に対して、外科手術が推奨される(推奨度2)。

最大径60 mm以上の非破裂性胸腹部大動脈瘤に対して、外科手術が推奨される(推奨度2)。

マルファン症候群に合併した胸部大動脈瘤では45 mm以上で侵襲的治療を考慮する(推奨度2)。

弓部大動脈瘤の胸部X線写真

弓部大動脈瘤の胸部X線写真

胸部大動脈瘤のサイズ計測

胸部大動脈瘤のサイズ計測

大動脈基部拡大(大動脈弁輪拡張症)の造影CT

大動脈基部拡大(大動脈弁輪拡張症)の造影CT

弓部大動脈瘤の造影CT

弓部大動脈瘤の造影CT

高安動脈炎に合併した胸部大動脈瘤

高安動脈炎に合併した胸部大動脈瘤

胸腹部大動脈瘤(慢性B型大動脈解離)の造影CT

胸腹部大動脈瘤(慢性B型大動脈解離)の造影CT

動脈瘤の分類

動脈瘤の分類

先天性大動脈二尖弁に合併する上行大動脈瘤

先天性大動脈二尖弁に合併する上行大動脈瘤

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病態・疫学・診察

疾患情報(疫学・病態)

ポイント:

胸部大動脈瘤とは、胸部大動脈壁の一部が全周性または局所性に拡大(正常径の1.5倍)または突出した状態と定義され、大動脈が全体にわたって拡大したものを大動脈拡張症(aortomegaly)と称する。

破裂前の早期発見、早期治療が重要である。胸部X線検査後、疑わしい場合、単純・造影CT/MRIによる精査を行う。多くが破裂するまで無症状であるが、動脈硬化性瘤がほとんどなため、高齢、高血圧、高脂血症、喫煙、家族歴(マルファン症候群など)などの動脈硬化あるいは動脈瘤の危険因子から上記疾患を疑う。非解離性大動脈瘤の発症のピークは、男性は70代、女性は80代である。

 

分類:

形状的に、大動脈全周の拡張である紡錘状瘤と、一部局所的に突出した嚢状瘤に分類される。また、形態別に、真性瘤(非解離性瘤)、仮性瘤、解離性瘤に分類され、部位別に、上行大動脈瘤(大動脈基部拡大を含む)、弓部大動脈瘤、胸部下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤に分類される。原因別には、動脈硬化性、変性、炎症性、感染性、外傷、先天性などに分類され、動脈硬化性がほとんどを占める。

 

動脈瘤の分類

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出典

 

日本循環器学会ほか編:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインhttps://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf(2021年1月閲覧)班長:荻野均、p15、表3、大動脈瘤の分類.

 

胸部大動脈瘤の存在部位による分類

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胸腹部大動脈瘤の分類

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Crawford分類

 

Ⅰ型:近位胸部下行大動脈から始まり腎動脈上で終わる。

Ⅱ型:近位胸部下行大動脈から始まり腎動脈下で終わる。

Ⅲ型:遠位胸部下行大動脈から始まる。

Ⅳ型:横隔膜以下の腹部大動脈に限局するが、腹部大動脈のほとんどを巻き込んでいる。

問診・診察のポイント

症状:

破裂するまで、ほとんどが無症状であるが、動脈の拡張により神経などを圧迫することにより症状を認めることがある。

弓部大動脈瘤では、左反回神経麻痺から嗄声を来すことがある。ほか、嚥下障害、顔面浮腫などの症状を認めることがある。

肺・気管や食道圧迫に伴う血痰・呼吸困難や嚥下困難を伴うことがある。

瘤に一致して痛みがあれば、切迫破裂として緊急で扱う。

破裂すれば、ほとんどがショックから心停止に陥る。

肺や食道に穿破すれば、喀血や吐血を呈する。

 

背景疾患・危険因子:

高齢、高血圧、喫煙、高脂血症などの動脈硬化の危険因子を有する場合には本疾患を疑う。

マルファン症候群などの遺伝性結合織疾患で高率に合併する[1]。

 

大動脈基部拡大(大動脈弁輪拡張症)の造影CT

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マルファン症候群に合併した大動脈弁輪拡張症

a:大動脈弁輪拡張症の造影CT画像

b:大動脈弁輪拡張症の術中写真

c:大動脈基部置換術(ベントール手術)後の造影CT画像

d:大動脈基部置換術(ベントール手術)時の術中写真

出典

 

荻野均先生よりご提供

 

胸部大動脈瘤症例の約20%は家族歴を有する[2]。

先天性大動脈二尖弁に高率に合併する。

 

先天性大動脈二尖弁に合併する上行大動脈瘤

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a:Rapheのない前後型の大動脈二尖弁(大動脈弁狭窄 Sievers分類 type 0 lat)

b:上行大動脈瘤の造影CT (axial image)

c:上行大動脈瘤の造影CT (3D)

出典

 

著者提供

 

大動脈炎症候群(高安動脈炎)・巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)に合併する。

慢性閉塞性肺疾患が瘤形成や破裂の危険因子とされている。

腎嚢胞症例で高率に胸部大動脈瘤を合併する[3]。

Bovine arch(腕頭動脈と左総頚動脈が共通幹を形成する大動脈弓部奇形)で高率に胸部大動脈瘤を合併する[4][5]。

動脈瘤例で高率に胸部大動脈瘤を合併する[6][7]。

フルオロキノロン内服症例で、大動脈解離/大動脈瘤の発生頻度が増加する[8]。

診断方針

想起

高血圧、喫煙、高脂血症などの動脈硬化の危険因子を有する場合には本疾患を疑い、胸部X線検査でスクリーニングする。

胸背部痛、嗄声、呼吸困難、嚥下障害、血痰・喀血、吐血などの症状を訴える場合、本疾患を念頭に置く。

診断

胸部大動脈瘤の診断・治療カスケード

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出典

 

日本循環器学会ほか編:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインhttps://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf(2021年1月閲覧)班長:荻野均、p48、図48、胸部大動脈瘤の診断・治療カスケード.

 

ポイント:

胸部CT、MRI検査にて最大径を測定することにより診断となる。

マルチスライスCT(MDCT)で撮影された高分解画像データでは、大動脈の中心線に直交する断面で瘤径を計測することが推奨される。3次元再構成CT画像が利用できない場合には、CT・MRI画像で最大径を測定することにより診断となる[9]。

 

血液検査:[10]

動脈瘤の診断は画像検査が中心であるが、高血圧症、脂質代謝異常、糖尿病などの動脈硬化性危険因子に対するリスク管理として血液検査は重要である。

未破裂大動脈瘤の診断の特異的バイオマーカーとして、フィブリノーゲン・Dダイマー・CRP・IL-6・MMP9などが検討されている[11]。

動脈瘤は大きいほど凝固異常を示す傾向があり、大動脈瘤により線溶亢進型DICを併発することがある。

 

胸部X線検査:

胸部X線検査上、大動脈に一致した異常陰影として本疾患が疑われる。

典型的所見は、左第1弓の突出で、弓部大動脈瘤を疑う所見である。下行大動脈瘤では大動脈の輪郭に連続する紡錘形ないしは円形の陰影として認めることがある。また、まれに石灰化を生じ瘤の存在が分かることもある。

 

弓部大動脈瘤の胸部X線写真

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左第1弓の突出を認め、弓部大動脈瘤を疑う。

出典

 

著者提供

 

下行大動脈瘤

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a:胸部X線写真にて、下行大動脈瘤を疑う。

b:造影CTにて、下行大動脈瘤(解離性)と診断された。

出典

 

著者提供

 

弓部大動脈瘤

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a:胸部X線写真にて、左第1弓の突出を認め、弓部大動脈瘤を疑う。

b, c:造影CTにて、弓部大動脈瘤と診断された。

出典

 

著者提供

 

胸部X線側面像で心臓陰影に隠れた胸部大動脈瘤を発見できる場合がある。

 

造影CT・MRI検査:

単純もしくは造影CT・MRI検査で診断確定に至る。単純CT、造影早期相にて撮影し、必要に応じて造影後期相を追加する。マルチスライスCT(MDCT)は検出器が多列化したヘリカルCTで、短い息止め時間で広範囲を高精細に撮影することが可能であり、胸部大動脈瘤の診断精度は最も高い[12]。

画像所見としては、径の大きさ(最大径)、進展範囲、瘤の形状を評価する。他に、壁の石灰化、内側偏位の有無、解離による偽腔の形成の有無、壁在血栓内の高濃度域(大動脈瘤の切迫破裂の所見)を評価する。また、圧迫されている臓器の有無、瘤壁の状況(炎症性大動脈瘤など)、瘤と主要大動脈分枝との位置関係を評価する。大動脈瘤破裂の場合は、大動脈周囲の血種や血管外への造影剤の漏出を認める。大動脈瘤破裂が疑われる場合には、微量の出血所見を見逃さないように注意深く評価を行う。

CTによる大動脈瘤のサイズ計測は、手術適応を決める重要な因子である。MDCTで撮影された高分解画像データでは、3次元再構成CT画像を用いて、大動脈の中心線に直交する断面で瘤径を計測する方法(central line法)が推奨される。MDCTによる3次元再構成CT画像が利用できない場合は、最大径の計測を原則とするが、大動脈が蛇行や斜走する場合は、瘤径を過大あるいは過少評価するリスクがある。<図表>

MRIは、造影剤を用いずに血流を評価することができるメリットがあるが、検査にかかる時間が長く、またアーチファクトを認めることもあり、診断精度としては、造影CT検査と比較すると劣る。また、MRAは造影剤を使用しない方法と、造影剤を使用する方法があり、一般的には造影剤を用いるほうが空間分解能に優れる。

いずれの撮像法を用いた際でも、最も重篤な手術合併症の1つである対麻痺を起こすことを回避するためAdamkiewicz動脈の同定を行う。CT、MRIの両方を用いることで9割程度の症例で同定ができるとされている。CTでは、Adamkiewicz動脈の前脊髄動脈と合流する際の「ヘアピンターン」を目印に同定を行う。

 

胸部大動脈瘤のサイズ計測

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a:volume rendering法による3D画像

b:大動脈径の計測断面の表示。赤:横断面(axial image)、緑:大動脈中心線ないし軸に直交する垂直断面像での計測

c:横断像(axial image)での計測

横断面での計測は、最大長径(73.5 mm)と最大短径(53.6 mm)が過大評価となる。

d:大動脈中心線に対する垂直断面像(perpendicular image)での計測

大動脈の中心線ないし軸に直交する垂直断面像での計測(51.8 mm)が最も精度の高い評価となる。

出典

 

自治医科大学さいたま医療センター放射線科 丹野啓介先生よりご提供

 

弓部大動脈瘤の造影CT

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a:破裂性弓部大動脈瘤(嚢状瘤)の術前CT(axial image)

b:破裂性弓部大動脈瘤(嚢状瘤)の術前CT(3D)

c:弓部大動脈全置換術後CT(3D)

出典

 

著者提供

 

高安動脈炎に合併した胸部大動脈瘤

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a:上行弓部大動脈瘤の術前CT(3D)

b:上行弓部大動脈瘤の術前CT(axial image)

c:左鎖骨下動脈閉塞のCT画像(3D)

d:腕頭動脈・左鎖骨下動脈のFDGの集積(PET-CT)

出典

 

著者提供

 

胸腹部大動脈瘤(慢性B型大動脈解離)の造影CT

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Crawford Ⅱ型の胸腹部大動脈瘤

出典

 

荻野均先生よりご提供

 

造影CTによるAdamkiewicz動脈の同定

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a:造影CT multi-planar reconstruction (MPR) image: ヘアピンターン(矢印)により同定されたAdamkiewicz動脈

b:造影CT curved multi-planar reconstruction (cMPR) image: Adamkiewicz動脈に連続する肋間動脈を同定する。

出典

 

自治医科大学さいたま医療センター放射線科 丹野啓介先生よりご提供

 

胸部大動脈の造影CT

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弓部大動脈瘤に対する開窓型ステントグラフト治療

出典

 

著者提供

 

心エコー:

大動脈基部病変は心エコーにより診断することもできる。

上行大動脈の拡大・上行大動脈瘤は、心エコーにより診断することもできる(上行径40 mm以上:感度78.6%・特異度92.9%、45 mm以上:感度64.7%・特異度95.3%)。心エコー検査は救急外来での初診時には有効である[13]。

大動脈三尖弁症例は、大動脈二尖弁症例と比較し、大動脈基部における長径と短径の差が大きいため、1 plane のみの計測(傍胸骨左縁長軸断層像など)では大動脈径をunderestimatedしやすい[14]。

 

血管造影検査:

血管造影検査は、CT・MRI検査の進歩に伴い、必要性は減少した。

 

鑑別疾患表:

縦隔腫瘍

肺腫瘍

食道腫瘍

胸膜腫瘍

疾患の除外

造影CT・MRIで胸部大動脈との連続性がみられなければ、本疾患は否定的である。

治療方針

原因疾患・合併疾患の評価

ポイント:

原因別に、動脈硬化性、変性、炎症性、感染性、外傷、先天性などに分類され、動脈硬化性がほとんどを占める。

動脈瘤の分類:<図表>

 

原因の評価:

ほとんどが動脈硬化性であり、脳血管、冠動脈、末梢動脈、腎動脈などの精査が必要である。動脈硬化のリスクファクターを認めない場合、発熱を認める場合、先天性疾患を示唆する特徴的な所見を認める場合は、動脈硬化性以外の原因の評価を必要とする。

手術が前提であれば、脳、心、肺、腎、肝などの機能を評価する。

 

感染性:

感染性の起因菌としてブドウ球菌サルモネラが挙げられ、その他肺炎球菌、梅毒トレポネーマ、結核菌、真菌や嫌気性菌などが挙げられる。

 

炎症性:

炎症性疾患としては、巨細胞性大動脈炎、高安動脈炎などが挙げられる。<図表>

 

先天性:

ポイント:

結合組織の疾患として、血管型エーラス・ダンロス症候群(皮膚の過伸展、脆弱性、血腫)、ロイス・ディーツ症候群(頭蓋骨癒合症、二分口蓋垂など)、マルファン症候群(高身長、脊柱側弯症、胸の奇形、細長い手足の指、過伸展)、ターナー症候群などの所見を認める場合は評価を行う。

マルファン症候群:

染色体15q21に存在するFBN1遺伝子が原因遺伝子で、大動脈、骨格、眼、肺、皮膚、硬膜などの全身の結合組織が脆弱になる常染色体優性遺伝性疾患である。結合組織が脆弱の結果、大動脈瘤や大動脈解離、高身長、側弯などの骨格変異、水晶体亜脱臼、自然気胸などを来す。

血管型エーラス・ダンロス症候群:

エーラス・ダンロス症候群は、皮膚、関節の過伸展性、各種組織の脆弱性を特徴とする遺伝性結合組織疾患である。その血管型は皮膚の過伸展は軽度で、易出血性、大小動脈の解離や破裂、消化管穿孔、臓器破裂、創傷治癒遅延を主症状とする。

ロイス・ディーツ症候群:

ロイス・ディーツ症候群はTGFBR1またはTGFBR2遺伝子変異による遺伝性結合織疾患として新規に提唱された疾患で、大動脈病変を主に、心血管系、骨格系、皮膚、他にも特徴的な症状を伴う全身性の遺伝性結合織疾患である。症例の98%で大動脈瘤を認める。

ターナー症候群:

ターナー症候群は、X染色体の全体または一部の欠失に起因した疾患の総称で、性腺機能不全を主病態とするが、大動脈の拡張などを認めることもある。大動脈基部の拡張はターナー罹患女性の最大40%で認められる。

家族性胸部大動脈瘤・解離:[15]

常染色体優性遺伝形式をとるが、新生突然変異により発症する場合を含め、遺伝性・家族性が不明瞭なこともある。既知の原因には、血管平滑筋収縮蛋白質をコードする遺伝子(ACTA2, MYH11, MYLK)の変異や血管平滑筋弛緩に関係するcGMP依存性蛋白キナーゼをコードするPRKG1遺伝子の変異などが報告されている。

 

その他:

その他、以下の疾患が知られている。

先天性拘縮性蜘蛛状指症、動脈蛇行症候群、多発性嚢胞腎(PKD1、PKD2遺伝子)や、アラジール(Alagille)症候群(JAG1、NOTCH2遺伝子)、ヌーナン症候群(PTPN11、KRAS、SOS1、RAF1遺伝子他)などが知られている。他に、皮膚弛緩症の一部(ELN、FBLN4遺伝子)、骨形成不全症(COL1A1、COL1A2 遺伝子他)でも、大動脈瘤・解離の合併の報告がある。

 

弁疾患:

二尖弁を認める患者ではより拡張のスピードが速いことが知られている。二尖弁を認めることが分かっている患者では、経食道エコーを行い、大動脈洞のサイズを評価し、40 mm以上の場合はその後の毎年の評価が必要となる。

 

他の血管疾患:

胸部大動脈瘤症例の約20%は腹部大動脈瘤を合併する[16]。

胸部大動脈瘤症例の約10%は腸骨動脈瘤を合併する[17]。

重症度・予後

重症度:

重症度分類は存在しないが、破裂例は予後不良である。

巨大なものほど破裂しやすく、重症といえる。

広範囲なものも外科治療が困難で、予後に影響し重症といえる。

最大径が55 mmを超えれば破裂の危険性が高まるため、手術リスクを考慮し侵襲的治療を検討する。アルゴリズム

瘤の突出が著しい嚢状瘤は、紡錘状瘤に比して破裂しやすく、より早期の侵襲的治療を必要とする[18]。

感染性瘤や吻合部瘤など、三層構造が破綻した仮性瘤は破裂しやすい。特に、感染性瘤は、人工血管感染の危険性もあり、きわめて予後不良である。

真性瘤に解離を合併した場合にも破裂しやすい。

 

拡張スピード:

上行動脈瘤は約1 mm/年、下降動脈瘤は約3 mm/年のスピードで拡大する[19][20]。ただし、先天性の以上を認める場合や、二尖弁を認める場合は、進行が早く約2 mm/年などのスピードとなることが多い[21][22][23]。

 

生存率・破裂率:

未治療の胸部大動脈瘤の1年生存率は65%、3年、5年ではそれぞれ36%、20%である。破裂は3~5割の死亡の原因を占める、中央値は2年ほどで、長期的には3~7割の患者で認めていた[24][25][26]。治療をした場合の2年生存率は7割、5年生存率は6割であった。

破裂率[26][27][28]はサイズによって大きく異なり、40~49 mmの間では2%/年未満であるが[27]、胸部大動脈の瘤径が50~60 mmでの心血管事故率は年間6.5%、60 mm以上で年間15.6%とされる[28]。上行動脈瘤では60 mmで、下行動脈瘤では70 mm以上で破裂率の上昇が認められており、破裂時の直径の中央値は上行動脈瘤で59 mm、下行動脈瘤で72 mmであった[29]。

治療

ポイント:

降圧、禁煙が破裂防止に重要であり、最大径≧55 mm、嚢状瘤、急速拡大(≧5 mm/半年)、切迫破裂(有症状)・破裂の胸部大動脈瘤は、侵襲的治療(手術もしくはステントグラフト)の対象となる。

手術術式が、大動脈瘤の存在部位により異なるため、侵襲的治療の推奨度も大動脈瘤の存在部位により異なる。非破裂性大動脈瘤の場合、大動脈基部・上行大動脈領域の大動脈瘤では瘤径55 mm以上が推奨度1、弓部大動脈瘤では瘤径55 mm以上が推奨度2、下行大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤の場合、瘤径60 mm以上が推奨度2となる。

 

胸部大動脈瘤の診断・治療カスケード

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出典

 

日本循環器学会ほか編:日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインhttps://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf(2021年1月閲覧)班長:荻野均、p48、図48、胸部大動脈瘤の診断・治療カスケード.

 

胸部大動脈瘤破裂に対する緊急処置のアルゴリズム

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降圧、脂質管理、禁煙・生活指導:

最大径55 mm未満(症状なし、紡錘状瘤、半年で5 mm以上の瘤径拡大なし、マルファン症候群を除く)の胸部・胸腹部大動脈瘤に対し、内科治療が推奨される。マルファン症候群など遺伝性結合織疾患の場合も、45 mm未満では内科治療が推奨される。

マルファン症候群の薬物治療はβ遮断薬が標準治療である。β遮断薬+placebo群と比較し、β遮断薬+ロサルタン群は、3年間の経過観察期間では、収縮期/拡張期血圧を減少させたものの、大動脈拡大率は減少させなかった[30]。

血圧のコントロールが重要で、血圧の目標を130/80 mmHg以下にする。

胸部大動脈瘤症例で、家族性高コレステロール血症、急性冠症候群の既往、糖尿病のうち1つを合併する場合には、LDL-Cの目標値を70 mg/dL未満とし、冠動脈疾患のみであれば100 mg/dL、胸部大動脈瘤のみであれば120 mg/dLを目標に脂質管理を行う[31]。

非破裂胸部大動脈瘤に合併するDICに対しては、抗凝固療法として薬物治療(ヘパリン類やナファモスタット、遺伝子組換えトロンボモジュリン)が実施されることがあるが、確立した治療法はない。出血傾向を呈しフィブリノーゲンの減少を認める場合には新鮮凍結血漿の補充を検討する[32]。

生活指導:

減塩する。

禁煙する。

暴飲暴食を避け、肥満を避ける。

過労、睡眠不足、ストレスを避け、規則正しい無理のない生活を送る。

いきみや重労働は避ける。

マルファン症候群症例は、激しい衝突や接触を伴う運動、重量上げ、isometric 運動(筋肉を動かさず収縮させる運動)を含む運動は避ける[33]。

 

処方例:降圧療法例

禁煙、血圧のコントロールが重要で、血圧の目標を130/80 mmHg以下にする。

血圧を目標値にコントロールするため、下記を適宜用いることを検討する。

1) メインテート錠2.5mg 1~2錠 分1~2 朝夕 [㊜高血圧症]

2) ビソノテープ4mg 1回4~8mg 1日1回貼付 [㊜高血圧症]

 

最大径55 mm未満(症状なし、半年で5 mm以上の瘤径拡大なし、遺伝性結合織疾患を除く)の胸部・胸腹部大動脈瘤に対し、内科治療が推奨される。(参考文献:[28])マルファン症候群など遺伝性結合織疾患の場合は、45 mm以上で手術適応となる場合がある(推奨度2J)。(参考文献:[28])

 

血圧のコントロールが重要であり、130/80 mmHg未満を目標に血圧管理を行う(推奨度1J)。動脈硬化性の胸部大動脈瘤症例の薬物治療でも、β遮断薬が降圧療法の第1選択薬剤である。

追記:紡錘状瘤に当てはまる基準であり、嚢状瘤ではこの限りではなく、より早期の(小さい)段階での外科治療が望ましい。

 

フォローアップ:

下記の基準をもとにフォローアップ評価を行う[34]。

最大径45 mm未満では1年ごとのCT検査を行う。

45~55 mm・55 mm以上では3カ月~半年ごとのCT検査を行う。

急速拡大(最大径5 mm/半年以上)を認める場合には3カ月ごとのCT検査を行う。

嚢状瘤の場合はこの限りではなく、頻回に検査する。

 

侵襲的治療の適応:(参考文献:[28][35])

侵襲的治療(手術もしくはステントグラフト)の適応は破裂のリスクと治療のリスクとの兼ね合いで決定される。破裂のリスクは主に大動脈径と遺伝的大動脈疾患の有無に影響され、形状や拡大速度にも影響される。遺伝性大動脈疾患には、マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群、エーラス・ダンロス症候群、家族性胸部大動脈瘤・解離、先天性大動脈二尖弁などある。形状としては紡錘状瘤と比較し嚢状瘤が破裂しやすい。拡大速度は、半年で5 mm以上拡大する症例は破裂しやすい。下記の場合、侵襲的治療の適応と判断する。

瘤の位置にかかわらず、最大径55㎜未満であっても半年間に5 mm以上の急速拡大を認める胸部大動脈瘤(推奨度2J)。

大動脈基部・上行大動脈領域では、遺伝性大動脈疾患がない場合は、大動脈径55 mm以上(推奨度1J)。

大動脈二尖弁の場合は、大動脈基部・上行または弓部大動脈径55 mm以上(推奨度1J)、大動脈解離の危険因子*を有する場合には50 mm以上(推奨度2J)、大動脈弁手術施行時に大動脈二尖弁に合併した45 mm以上の上行大動脈拡大(推奨度2J)。

マルファン症候群の場合は、大動脈基部・上行大動脈領域では、最大径50 mm以上の瘤(推奨度1J)。最大径45 mm以上の瘤で大動脈解離の危険因子*を有する場合、また、妊娠予定の女性で最大径40 mm以上の瘤を有する場合の予防的手術(推奨度2J)。

弓部大動脈以下では、遺伝性大動脈疾患がない場合は、弓部で大動脈径55 mm以上(推奨度2J)、下行・胸腹部で60 mm以上(推奨度2J)。

瘤の位置にかかわらず、瘤に一致して痛みを伴う切迫破裂例や破裂例(推奨度1J)。

*大動脈解離の危険因子:大動脈解離の家族歴、大動脈拡大速度>5 mm/半年、重症の大動脈弁閉鎖不全、妊娠希望など

 

身長・体表面積補正での瘤径の補正(推奨度3G)。(参考文献:[36][37])

2010 ACCF/AHA/AATS/ACR/ASA/SCA/SCAI/SIR/STS/SVMガイドラインでは、マルファン症候群や大動脈二尖弁症例の無症候性大動脈拡大に対して、身長で最大大動脈面積を補正して手術適応となる閾値サイズを決定する手法がClassⅡa、レベルCで記載されている。マルファン症候群や大動脈二尖弁に限らず、体表面積で最大径を補正して手術適応となる閾値サイズを決定する方法は、2006年Yale大学の研究グループから報告され最大大動脈径/体表面積>2.75 cm/m2が手術閾値として推奨されているが、一般的には用いられていない[38]。2014年ESCガイドラインでも低身長の体表面積が少ない症例に対する早期の手術治療介入はClassⅡb、レベルCで記載されている[37]。

 

胸部大動脈手術実施症例のJapan scoreによる手術リスク評価(https://jcvsd.org/JapanSCORE/JapanSCORE)(推奨度1J)。(参考文献:[39])

日本成人心臓血管外科手術データベース(Japan Adult Cardiovascular Surgery Database:JACVSD)に集積されたデータに基づき、胸部大動脈手術実施症例の手術リスク評価が可能であり、臨床上有用性が高い。

 

外科手術の術式選択:(参考文献:[28])

広範囲例には分割手術も考慮する。高齢、耐術困難な場合には、ステントグラフト治療を選択する。手術とステントグラフト治療を併用したハイブリッド治療も考慮する。

大動脈基部に対する手術術式は弁付グラフト(Bentall手術)、同種大動脈(ホモグラフト)、異種大動脈、自己肺動脈弁(Ross 手術)など弁置換を基本とする術式と、自己弁温存大動脈基部置換術(aortic valve sparing surgery;AVS)に大別される。冠動脈に関しては、Button Bentall法を基本とし、冠状動脈の授動が困難な場合には人工血管を介在させるPiehler法を用いる。大動脈基部病変の標準術式はBentall手術であるが、若年患者に対しては、熟練した手術チームによる自己弁温存大動脈基部置換術が推奨される。

瘤径55 mm以上の弓部、遠位弓部大動脈瘤では、弓部大動脈置換術を実施する。弓部大動脈置換術では、確実な脳保護手段が重要である。弓部大動脈瘤では外科手術が第1選択であり、末梢側大動脈にステントグラフトを挿入するオープンステント法も近年増加傾向である。

瘤径60 mm以上でTEVAR適応外の胸部下行・胸腹部大動脈瘤では、胸部下行・胸腹部大動脈置換術を行う。術前にMRやCTなどによりAdamkiewicz動脈を同定し、肋間動脈再建、温存の手がかりとする。術中は、運動性脊髄誘発電位や体性知覚電位を継続的に評価し脊髄虚血をモニタリングする。広範囲に及ぶ下行大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤の開胸開腹手術では、禁忌がなければ、脳脊髄液ドレナージの実施が望ましい。

造影CTによるAdamkiewicz動脈の同定:<図表>

 

術前の評価:

瘤の形態、形状、部位、原因を正確に把握する。

脳、心、肺、肝、腎、消化管、末梢血管などの併存疾患を精査する。

開胸下、体外循環や低体温を用いた人工血管置換術に耐術できるかどうかを判断する。

手術の合併率・術後成績:

上行、基部大動脈瘤に対する待機手術の成績は一般的に良好であるが、待機・緊急手術ともに、下行大動脈瘤と胸腹部大動脈瘤の在院死亡率は高値である。下肢対麻痺の合併頻度も低くない(平均5~10%程度)。

胸腹部大動脈瘤に対する手術成績(在院死亡率・対麻痺発生率)は、大動脈瘤の進展範囲により影響を受ける。特に、近位胸部下行大動脈~腎動脈下まで達するCrawford Ⅱ型は、他の胸腹部大動脈瘤に比べて、治療成績は不良である[40]。

ステント術(TEVAR):(参考文献:[28])

上行大動脈瘤に対する血管内治療の適応は現状ではない。弓部大動脈瘤に対する血管内治療は高齢者、外科手術ハイリスク例である。下行大動脈瘤に関しては、解剖学的状況がデバイスの適応に適合するならば、合併症が低率であることより、特に外科手術ハイリスク例では第1選択の治療である。また、外科手術ローリスク例でも検討をしてもよい。腹部主要分枝の再建を必要とする胸腹部大動脈瘤では、外科手術困難例、ハイリスク例に適応とされる。

外傷性大動脈損傷、特に動脈管索ならびに下行大動脈に発生する外傷性大動脈損傷については、ステントグラフトが第1選択となる。

胸部下行大動脈瘤破裂例に対しては、ステントグラフト治療が外科的手術と比較して良好であり、推奨されている。

なお、胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療後の生存率は外科手術治療同などで、40~87%/5年程度である。

TEVARの適応は症例ごとの解剖学的要因を主として、病因、併存疾患、余命などを考慮に入れ、他の治療法(外科手術、内科薬物療法)と比較したうえで総合的に判断する(推奨度1J)。

瘤の中枢・末梢には20 mm以上の健康なlanding zoneの確保が必要である。また、それぞれのlanding zoneにおいて、大動脈径の10~30%オーバーサイジング径のステントグラフトで行う(推奨度1J)。

大動脈血管内治療に熟練した施設、治療チームにおいて、外科手術チームのバックアップ体制下に行う(推奨度1J)。

解剖学的要件を満たす胸部大動脈瘤破裂に対しては、外科手術よりもTEVARを選択する(推奨度1J)。

侵襲的治療が必要で、解剖学的要件を満たす外傷性大動脈損傷に対してTEVARを施行する(推奨度1J)。

解剖学的要件を満たす下行大動脈瘤(≧60 mm)に対してTEVARを施行する(推奨度1J)。

外科手術が高リスクの弓部大動脈瘤症例には、階窓型ステントグラフトを使用したTEVAR、分枝再建を伴うTEVAR、またはin situ開窓術を用いたTEVARを考慮する(推奨度2J)。

解剖学的要件を満たす下行大動脈瘤(≧55 mm)に対してTEVARを施行する(推奨度2J)。

脊髄障害の高リスク例に対する広範囲に及ぶTEVARで、禁忌がなければ、脳脊髄液ドレナージを考慮する(推奨度2J)。

 

胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療

画像

a:術前

b:術後

出典

 

著者提供

 

エンドリーク:[28][37]

エンドリークには、その漏れる部位により以下の4 typeが存在する。Type Ⅱが一番頻度の高いリークである。

TEVAR後にエンドリークが判明した場合、Type I, Ⅲは可及的速やかに、Type Ⅱ, Ⅴは瘤径拡大を認めた場合に追加治療を行う(推奨度1J)[41]。

TypeⅠ:ステントグラフトと宿主大動脈との接合不全に基づいたleakで、perigraft leakとも呼ばれる。Ia(中枢側から)とIb(末梢側から)に分けられる。

TypeⅡ:大動脈瘤側枝からの逆流に伴うleakで、side branch endoleakとも呼ばれる。

TypeⅢ:ステントグラフト-ステントグラフト間の接合部、あるいはステントグラフトのグラフト損傷などに伴うleakでconnection leakあるいはfabric leakとも呼ばれる。

TypeⅣ:ステントグラフトのporosityからのleakでporosityleakとも呼ばれる。

TypeⅤ:画像診断上、明らかなendoleakは指摘できないが、徐々に拡大傾向を来すもので、endotensionとも呼ばれる。

 

Stent graft-induced new entry:[42]

Stent graft-induced new entry(SINE)は、ステントグラフトにより新規内膜tearが形成される大動脈ステント手術に伴う合併症であり、中枢側に発生すれば逆行性解離を発症し、末梢側でも大動脈拡大などを生じうる。通常、無症候性であり、routine surveillanceの造影CT検査で発見されることも多い。慢性B型解離に対する大動脈ステント治療で発生頻度が高く、over-sized ステントが危険因子である。

 

非解離性胸部・胸腹部大動脈瘤の手術成績日本胸部外科学会、2017年(非解離性胸部大動脈瘤):[43]

待機的手術の在院死亡率:

大動脈基部手術:4.7%(50/1066)

上行大動脈手術:3.8%(54/1406)

上行・弓部大動脈手術:4.7%(104/2193)

胸部下行大動脈手術:5.3%(14/264)

胸腹部大動脈手術:9.0%(33/365)

胸部大動脈ステントグラフト留置術(分枝再建なし):2.4%(48/1970)

オープンステント術:5.1%(65/1267)

緊急手術の在院死亡率:

大動脈基部手術:19.4%(7/36)

上行大動脈手術:21.2%(11/52)

上行・弓部大動脈手術:18.6%(18/97)

胸部下行大動脈手術:20.0%(8/40)

胸腹部大動脈手術:25.0%(9/36)

胸部大動脈ステントグラフト留置術(分枝再建なし):21.0%(59/281)

オープンステント術:28.9%(28/97)

治療の中止

通常、瘤が縮小、治癒することはなく、治療を中止することはない。

専門医相談のタイミング

手術が必要な場合、血圧のコントロールが不良な場合、禁煙が困難な場合は専門医に紹介する。

最大径50 mm以上の紡錘状瘤、嚢状瘤の場合

半年~1年間で5 mm以上の急速拡大を認める場合

瘤に一致して痛み、圧迫感、違和感などの症状を伴う場合

瘤が原因と思われる圧迫症状を呈する場合

血圧のコントロールが不良な場合

禁煙が困難な場合

入院適応

下記が入院適応である。

最大径55 mm以上の紡錘状瘤、嚢状瘤の場合には55 mm以下でも考慮

半年間で5 mm以上の急速拡大を認める場合

瘤に一致して痛み、圧迫感、違和感を伴う場合

喀血や吐血を伴う場合

発熱を伴い感染性瘤が疑われる場合